「初音ミク×鼓童」スペシャルライブレポート/伊達なつめ(演劇ジャーナリスト)

Photo: Maiko Miyagawa

昨年大好評を博した This is NIPPON プレミアムシアター「初音ミク×鼓童」のスペシャルライブが、グレードアップして帰ってきた。会場のNHKホールは、衿に「初音」「鼓童」と名前の入ったライブ・ハッピを着た人たちでいっぱい。

Photo: Maiko Miyagawa

オープニングとともに地鳴りのような歓声が起き、オールスタンディングとなった客席に、いっせいに太鼓型ペンライトの光が揺れ出した。

Photo: Maiko Miyagawa

(※6/1 リハーサル写真)

「去年はにぎやかな曲と穏やかな曲を交互に入れていたんですが、今年はミクさん側からの『もっとアゲアゲで!』というリクエストで、体力的にもハードな曲が続くんです」と選曲担当の石塚充が言うように、ミクのナンバーを太鼓と鳴物で盛り上げ、リン・レンのデュエットでは、鳴物担当が彼らのダンスを完コピして一緒に踊り、『三宅』『巴』など鼓童の大曲では、3~4分ずつにまとめた濃縮ハイライト版を惜しげもなく演奏と、大忙しのフル稼働。

Photo: Maiko MiyagawaPhoto: Maiko MiyagawaPhoto: Maiko Miyagawa驚いたのは、こうした鼓童の緩急に富む複雑なビートを刻む楽曲にも、観客が手拍子やかけ声で、しっかり伴走してみせること。

 

Photo: Maiko Miyagawa

今年初参加の住吉佑太は、
「ミク・ファンは音楽が好きで、曲を聴きに来ている人が多い感じがしますね。こちらが何を振ってもついてきてくれるので、もう”闘い”みたいにテンションが上がって、すごく楽しいです。『巡』では、前の方のお客さん、めっちゃ踊ってくれてましたし(笑)」と、今秋の新作舞台にも、十分な手応えを感じた様子。

Photo: Maiko Miyagawa

「巡 -MEGURU-」(※6/1 リハーサル写真)

フィナーレでいったん幕が閉まると「コドオ・ミーク」「コドオ・ミーク」のアンコール大合唱。コラボ2度目にして、ミクはもちろん、ミク・ファンと鼓童も、ガチで相思相愛の関係になったことを確認できた。

文:伊達なつめ(演劇ジャーナリスト)

▼今回演奏の「巡 -MEGURU-」MVはこちら

This is NIPPON プレミアムシアター「初音ミク×鼓童 スペシャルライブ2018」

「バックハー」との再演/菅野敦司

「アース・セレブレーション2016」で初共演をした、ベトナムの伝統音楽芸能集団「バックハー」が2年ぶりに来日します。

Photo: Atsushi Suganoこの写真は、演出を担当する住吉佑太が、昨年12月に初めてハノイを訪ね、現地の空気に触れ、リハーサルと交流とを行った時の様子です。Photo: Atsushi Sugano

Photo: Atsushi Sugano

旅先で出会ったアーティストを日本で紹介できることは、私たちにとって何よりの喜びです。バックハーは5月21日来日し、鼓童村でのリハーサルを経て、5月26日に新潟での再演が実現します。

どうぞ、お楽しみに。

2018年5月26日(土)鼓童特別編成で出演「NST開局50周年 りゅーとぴあ開館20周年 日越外交関係樹立45周年 アース・セレブレーションコラボイベント『鼓童&バックハー』」(新潟県新潟市)

雅幸・佑太コンビ/住吉佑太

Photo: Takashi Okamoto

坂本雅幸という大先輩と、住吉佑太という新人のコンビ。
始まりはアマテラスの「草分け」という曲から。それに続いて「炯々」「霹靂」「カデン」「段」と、五年間一番近くで雅幸さんの姿を見てきました。

Photo: Takashi Okamoto

ありがたいことに僕はいつも、雅幸さんの対で演奏することが多かったんです。

Photo: Mayumi Hirata

「草分け」に関しては、アマテラス、金丸座、神秘、打男……

人前で演奏した数だけでも400回は越えているかもしれません。

「いったい、あと何回やるんだろうな」と雅幸さんはよく言いました。

「それもあと2回ですよ」と心の中で答えてみると、なかなか感慨深い思いが湧いてきます。

Photo: Takashi Okamoto

僕が鼓童に入って間もない頃、雅幸さんがヨーロッパツアーから帰ってきた春、初めて稽古をつけてもらいました。

演目は「SHAKE」の締獅子だったかと思います。

しかし稽古の内容は、フレージングでもストロークでもなく「打つ前の空気感」について。

「SHAKE」という曲をご存知の方はお分かりかと思いますが、締獅子のフィルインから始まります。その一打を打つ前に、何百人もの観衆の目や耳を、自分の手元に集める気持ちでと雅幸さんは教えて下さいました。

「エネルギーを発散したいときと集中させたいとき、胸の角度で自分を表現するんだよ」

今でも舞台に立つとき、この言葉を思い返します。

Photo: Takashi Okamoto自分が前へ出るときは胸を開き、バッキングにまわるときは胸を落とす。音の強弱と胸の表現、まさに音楽と身体言語を一致させるということ。

雅幸さんとはよく酒を飲みました。国内でも海外でも、よく飲みに連れていってくれました。(というよりも僕が行きましょう!と声をかけることの方が多かった気もしますが)

初めて雅幸さんが住居棟(若手の独身寮)に飲みに来てくれたときは、嬉し過ぎて30分で酔いつぶれてしまい、雅幸さんを困らせました。

雅幸さんが30歳になる誕生日のときは、僕が企画して鼓童村の中庭で盛大にバーベキューをしました。

Photo: Takashi Okamoto

酒を飲みながら、本当に取り留めのない話から太鼓の話まで、たくさん話し込みました。雅幸さんの性格と人柄を知り、大事にしているモットーを学び、馬鹿なこともたくさんしました。

食べ放題じゃない焼肉に行って、すさまじい金額に恐れ慄いたり

優柔不断な雅幸さんのために、一緒に行ってギターを選んであげたり

二人で海へ飛び込んで、あまりに強い日本海の波力で岩に打ち上げられたり

僕がウクレレで雅幸さんがギターのブルースとも言えないセッションにハマったり

ドイツビールを飲みに行く前に二人で走り込んで「これじゃプラマイゼロですね」というと「定点的なゼロと、行って帰ってきたゼロは質が違う」という格言が生まれたり……

その1つ1つの思い出が、僕たちの音をピタリと合わせるための糧になっていきました。

雅幸さんは、やせ我慢を現実に変える男でした。

どんなに薄着で寒そうでも「寒くない」と言い、どんなに顔が真っ青できつそうでも「余裕や」という。

変なところが負けず嫌いで、どんなに乗り気じゃなくても煽るとやってくれる

Photo: Ryotaro Leo Ikenagaそんな雅幸さんを心から尊敬していて、今も憧れています。

それでいながら飾らず気さくで、いつもそばにいたいなと思わせてくれる先輩。

Photo: Takashi Okamoto雅幸さんが鼓童から卒業するということは、僕が雅幸さんから卒業するということでもあります。

いつだって目標にしてきた、雅幸さんより目立ちたい!という一心で、並んで舞台に立ってきた日々から。

あと2公演。新潟と佐渡。

打男ツアーは12月まで続きますが、後半戦は(石塚)充さんとダブルキャストで交代になるので、雅幸さんと一緒に舞台に立つのはあと2回です。

泣いても笑ってもあと2回です。

ぜひ、新潟公演へ!

ぜひ、佐渡公演へ!

 

奇才、中込健太/住吉佑太

彼は演奏者でありながら、作曲家である。
その独自の音楽性と魂は、
多くの人を魅了してやまない。

彼の楽譜は常に斬新で、前衛的である。

例えば、この強弱記号。

「おとこっしも(漢ッシモ)」

通常は「ff フォルテシモ(最も強く)」という音楽記号が用いられるが

その数百倍の音量と魂をもって、
演奏してもらいたい。

そんなときに用いられるのが、
♂(オス)の形を使った記号
「おとこっしも」である。

これは音響学的な音量だけでなく、
精神面や太鼓との向き合い方を考えさせられる
そんな記号なのかもしれない。

最終的にはこんな感じになる。

おとこっししししししも!

単純計算でも
何億倍、何兆倍もの音量を!ということなのだが
これまた、音響学的な問題ではなく
精神性を問われているのだ。

真摯に太鼓と向き合い
全身全霊で
死ぬ気で打ってほしい。

メゾピアノからの音量レンジの幅は計り知れない。

もう1つ
彼の楽譜における最大の特徴を挙げてみよう。

例えばこの譜面。

まさかの、休符にまで「アクセント」が
ついているのだ。

彼曰く「能のコミという概念から着想を得た」
とのことだ。

「コミ(込み)」というのは
能において、次の演奏や動きに移るときに、
気を込めて取る、沈黙の間や呼吸
ある種の「タメ」のようなもので、
「コミをとる」というふうに用いられる。

このアクセントがつけられた休符は、
ただの休みではない。
ドンドン ウン!
ここで強く、この休符に気を込めてほしい。

音と音の間に音楽がある。

そのことを痛感させられる楽譜表現である。

ちなみに彼の曲は
ほぼすべての拍にアクセントがついている。

アクセント記号を書く手間1つにしても
楽譜からすでに彼の魂が感じられるのだ。

彼の楽譜には
様々な挿絵が用いられている。

楽譜をめくるのが楽しくなるような
ストイックで強烈な曲調とは、
いい意味で関係のない挿絵たちは
演奏者の気持ちを和らげてくれるだろう。

ちなみにこの犬は
ほぼすべての楽譜に登場している。

かなり思い入れのあるキャラクター
なのかもしれない。

そんな奇才、中込健太の曲が
今年の夏もECで披露されます!

ぜひ、夏は佐渡へ!
お待ちしてます!!

 

アース・セレブレーション
https://www.earthcelebration.jp/

ほかイベント盛りだくさん!

「幽玄」まもなく開幕!稽古写真&メンバーコメント

「幽玄」まもなく開幕です!
稽古写真&メンバーコメントをご紹介

「坂東玉三郎 × 鼓童特別公演 幽玄」

坂東玉三郎氏と鼓童のヒット作「アマテラス」に続く待望の共演第二弾は、能楽において世阿弥が唱えた「幽玄」の世界を取り上げます。「羽衣」、「道成寺」、「石橋」など能の演目を題材に構成された大作で、歌舞伎界を代表する不世出の女方・坂東玉三郎氏が優雅に舞い、太鼓界を牽引し続ける鼓童が斬新に囃します。それは古典芸能の世界から更に未来を見据えた新たな芸術の形でもあり、未開拓の境地を切り開いて行く両者による新作がいよいよ登場します。

一幕は坂東玉三郎氏と花柳流の舞踊家の皆様が「羽衣」の世界を花柳流五世宗家家元・花柳壽輔氏の振付で舞を披露。能楽囃子の小鼓・大鼓・太鼓を、鼓童は締太鼓で表現し、古典芸能として長い時を経て磨き上げられてきた能楽特有の世界観が劇場空間に広がって行きます。

締太鼓を演奏しながら謡を謡うことも鼓童の挑戦であり、太鼓打ちという範疇から解き放たれた鼓童の音楽性が期待されます。

二幕は、一幕からの構成がさらに展開し、鼓童のオリジナル楽曲と能楽の様式が融合します。その能楽の様式と鼓童の楽曲の移り変わりから生まれる大きなうねりには、新たな芸術の可能性が感じられ、「道成寺」では白拍子が大蛇に化身し、「石橋」では五体の獅子が鼓童のリズムと共に勇壮に舞い納めます。

まもなく迎える開幕に向けて、新潟県・佐渡島の鼓童村にて行われている稽古も、能楽囃子指導の亀井広忠氏、能楽指導の津村禮次郎氏、能管指導の田中傳十郎氏による稽古も加わり本格化。

鼓童メンバーは、花柳流五世宗家家元の花柳壽輔氏をはじめ、花柳流舞踊家の皆様とともに、能楽の世界に没頭し稽古を重ねております。

鼓童メンバーより開幕直前の意気込みコメントをご紹介します!

◆齊藤栄一/音楽アドバイザー

僕のお薦めは締太鼓の演奏です。同じ楽器・同じ姿勢・同じシチュエーションで叩いているのに、全く違う音色・リズム・奏法を楽しめる、新しさと伝統を感じられる『幽玄』ならではのシーンになっています。


膨大な熱量とエネルギーを内包した”静”と、力み伴わない「無」さえ感じる解放された”動”、相反するかに思える”静”と”動”を、稽古の中で少しずつ、でも確実に吸収してゆくメンバーを心強く感じています。まだまだ発展途上だけれども、玉三郎さんのご指導のもと、同じ舞台に立つことの出来る感謝と喜びと責任の重大さとを噛み締めつつ、日々精進していきたいと思います。


◆住吉佑太/出演

今回、私は能管に初挑戦しています!日々稽古をしていく中で、能管独特の音階や力強さに魅力を感じています。篠笛とはまた違う息の吹き込み方や指の使い方など、学ぶべきことがたくさんあります。

これまでの鼓童に、日本の古典芸能のスピリッツを織り交ぜることで、ある種の原点回帰でありながら、さらに深化、そして進化していくための第一歩の舞台になると思っています。ただただ音楽的に面白いということだけでなく、その先にある精神性や幽玄の世界感をいかに表現していくことができるか。そんな古典をベースにしながらも新しい舞台にしたいです。

◆池永レオ遼太郎/出演

鼓童が「バッキング隊」から前に出てきたときの音圧や、蛇舞などの身体表現に着目していただきたいです。また、いろんな楽器や音を使っていますので、単純に“音”を楽しんでいただけると思いますし、私が作曲した曲もありますので、そこも含めて楽しんでいただきたいです。
『幽玄』は間や沈黙、時間がゆっくりと流れる舞台だと思います。それらを演奏者として楽しめるように「和」を理解できるよう稽古に励んでいます。常に革新を恐れず、何事にもとらわれず、楽しみながら作品作りと舞台に臨みたいです。

坂東玉三郎×鼓童特別公演「幽玄」