深化する鼓童 “入破”を期待して 原田敬子(作曲家)
| 鼓童の代表的演目《モノクローム》、《モノプリズム》(石井眞木作曲)は、2026年に初演50周年を迎えます。そして鼓童は創立45周年。この節目となる機会に作曲家の原田敬子さんからメッセージをいただきました。 |

photo: 岡本隆史
個々の才能が煌めくエネルギッシュな舞台、さわやかな汗、満面の笑顔、客席への語りかけ、喜びと興奮、そして喝采。ああ、これが長年愛され、世界中のファンを魅了してきた鼓童さん(以下敬称略)の魅力なのだろうと、近年の国内ツアーを見て感じる。それは、私が新曲《鬼》を書き下ろして鼓童と初めて協働した、 NOISM × 鼓童《鬼》(2020-22年 (公財)新潟市芸術文化振興財団委嘱、金森穣氏による振付演出)の舞台とは全く違う、鼓童本来の楽しい舞台なのだが、実は気づいた事がある。《鬼》の直後に制作された新作以来、何か、新鮮かつ異なる深化もしているようなのだ。それは響きや音楽の“間”など、ディテールに聴きとれる。鼓童ファンの皆さんも感じているだろうか。

Noism × Kodo 《Oni》(2024年)
Photo by Yuichi Kayano
本稿では、2026年の国内ツアーで再演される、石井眞木(1936-2003)作曲《モノクローム》(1976年作曲、世界初演 ベルリン)の魅力、同じく再演される筆者の作品《鬼》、そして鼓童への期待などについてお伝えしたい。
さて、鼓童の前身である「佐渡の國 鬼太鼓座」が《モノクローム》(1976)を初演して50年。今の鼓童にとって、この曲はどのように映るのだろう。筆者は作曲者の石井氏に思いを巡らせる。1970年代の半ば、日本の作曲界は高度成長期と共に活発だった。石井氏はドイツと日本を行き来し、欧州で流行した「前衛」を日本に伝える重要な一人だったが、石井氏自身は、いわゆる西洋の前衛とは異なる、原始的な素直さのような何か、そう、“自然現象に近いような作風”を持つ、豪快で異色の作曲家。7名で演奏する《モノクローム》には、その石井氏が50年以上前に鼓童の前身である「鬼太鼓座」に出会って感じた事が、凝縮されているように思えてならない野心作にして快作。ところで当時、「鬼太鼓座」のために作曲されたオリジナル音楽は無かった。それもそのはず、和太鼓をメインとする、地元の民俗芸能継承としてではない新たな方向を目指した団体なのだから。その頃、大雑把に言えば、日に20キロを走り身体を鍛え、とにかく大きな音で太鼓を連打する集団だったそうだ。

《輝夜姫》のリハーサル、奥が石井眞木氏(1983年)
それが、この作品では、殆ど聴こえないような音を、独奏で、締め太鼓の速打ちにより開始、その後、残りの6名が徐々に、全く同じリズム(ユニゾン)の速打ちで重なっていく。そして7名が揃った後に30秒弱かけてフォルテッシシモfffまで徐々に強くなる。ここに石井氏の美学と挑戦を感じる。石井氏のHPによると「石井は、彼らにとって全く新しい打法を考案し、その新打法が、彼らの<血となり肉となる>までの訓練を要求し実践した。当初の訓練は、いわゆるスパルタ的な厳しいものだった。(中略)まるで仏教の求道者の<行>に近いものであった。この成果は、(中略)信じられないような、演奏の異常な<正確さと力動感>を獲得することになる。(中略)」

《Oni》の稽古風景、右奥が原田氏(2021年)
ここで、筆者が鼓童に作曲した《鬼》の制作プロセスを思い出した。作曲家 石井氏は、鼓童に特別な訓練を要求したが、その約45年後、筆者の新曲《鬼》の練習に際して、鼓童の演奏メンバー自らが、《鬼》のために“エチュード”なるものを考案し、毎回のリハーサル前に行っていたのだ。理由を尋ねると「こういう曲は初めてなので。音を出す直前の集中を高めるために」旨、初演時のリーダーが冷静に答えた。筆者は感銘を受けた。なぜなら、筆者の音楽の最大の特徴の一つは「予兆」だから、その音を発する直前までの、身体内部のエネルギーのコントロールが極めて大切。鼓童は、初めて協働する作曲家(筆者)の音楽の特徴を、真摯さ、繊細さ、そして直観力で、既につかんでいたのだ。実は筆者が、《鬼》の作曲以前に佐渡の鼓童村を訪ね、目の前で演奏を聴いた時に「これは凄い可能性を持った団体。でもポテンシャルの2割くらいしか使っていないのでは」と感じていた。そして、振付演出の金森氏が「これまでの鼓童さんとは違う何かを聴きたい」と言った。筆者は、’90年代半ばから「何か新しい挑戦をするには、先ず音楽の媒体(演奏家自身)の内部が変わることが必要だ。そうでなければ表面的な音の面白さや技術の披露になりがちで、真の新鮮さが聴き手に届くことは無い」という考えで作曲してきた。それで《鬼》では、鼓童の身体の内部を変えてしまうような、そんな音楽を作りたいと思った。完成の数ヶ月後には、筆者の期待をはるかに上回る演奏に仕上がってきており、《鬼》は作曲者の手を離れ、鼓童の内部に彼らなりの方法で宿った、という感じがしたのだ。こんな嬉しいことは、作曲家の人生でそう頻繁に起こることではない。

《入破》初演時のリハーサル、右端が石井眞木氏(1981年ケルン)
Photo: 富田和明
あっという間に本稿のむすびになるが、前述の石井氏は1981年、鼓童結成時の祝いに作品《入破》を贈り、HPの楽曲解説に次のように書いている
「入破は<新しい領域>に入ることを意味し、また「雅楽」では一種の<変化の形式>を表している。(中略)新生「鼓童」を祝い、新たな飛翔を希って、それまでに書いた「モノクローム」、「モノプリズム」とは異なる<太鼓の世界>を現出させようと意図した。」

《モノクローム》photo:岡本隆史
筆者は、あの日《鬼》“エチュード”の誕生を目撃し、石井氏の思いが、現在の鼓童に継承されていると感じた。いま現在、鼓童の演奏技術は高度に洗練され、例えばヤニス・クセナキスの打楽器曲だって暗譜で演奏できるだろう。しかし筆者は、輝かしい演奏技術を披露するだけの音楽ではなく、今の鼓童の音楽的な身体が、更に深化するような音楽を作ってみたいと思う。歴代の作曲家たちは、同時代を生きる素晴らしい演奏家との出会いによって刺激を受け、良質の音楽を創造するモチベーションを得てきた。目下、AIの時代に入って音楽も随分と変化した。それでも、自らの身体の内部―それは有限で常に変化する―を繊細に感じとり、自らと他者を同時に聴きとることのできる、生身の人間の心によって打ちだされる響きは、AIには真似できないと思う。そして願わくば100年後にも新鮮に響くような音楽を作ってみたいと思う。今後も続く鼓童の深化と“入破”を期待しつつ。
2025年11月16日 東京にて
| 原田敬子 作曲家。「演奏家の演奏に際する内的状況」に着目し、独自の作曲語法を探求している。 2012年に研究活動をベースとした創作を開始、日本の地域で育まれた楽器や声のフィールドワークをベースに地域独特の音文化を、新たな響きと身体表現により発信するプロジェクト「伝統の身体・ 創造の呼吸」で、鹿児島伝統の薩摩琵琶にとって約130年ぶりとなる新曲を継承者と共作し初演した。 異分野との創作活動も多く、第9回シアター・オリンピックス委嘱作曲家として、舞踊振付家の金森穣氏と新作を発表。2022年には金森氏が芸術総監督を務める舞踊団Noismと鼓童の共演作品《鬼》を作曲。 これまでに日本音楽コンクール第1位、芥川作曲賞、中島健蔵音楽賞、尾高賞、輝く女性賞ほか受賞。現在、東京音楽大学(作曲芸術)教授、鹿児島大学客員教授、同大学国際島嶼教育研究センター客員研究員。 公式サイト: https://www.tokyo-concerts.co.jp/artists/keiko-harada/ |



















終了後の皆さんの表情から、特別な時間をご提供できたのではないかと思います。








お祭りのテーマは「コミュニティ」です。地域の小学生にお祭りで飾る灯籠の絵を描いてもらったり、フィオナさんが率いる「Ibuki Taiko」、「Irodori Taiko」、「Himawari Taiko」による太鼓の演奏の他にも、盆踊りやよさこいなどを披露した踊り手チームや、太鼓とのコラボのために集まったケルト音楽家達など、地域の至るところから集まって一つのお祭りを作り上げていました。
















