鼓童 演目図鑑/一六囃子(いちろくばやし)
季刊「鼓童」2024年11月(冬号)よりWEB拡大版
構成:坂本実紀、編集部 写真:岡本隆史、鼓童
曲の成り立ち
住吉は2014年、韓国の現代音楽である「サムルノリ」にハマっていた。惹かれたのは、自国のリズムで組み合わせたアンサンブルを演奏する姿。そこからインスパイアされ、「和製サムルノリ」をやりたいと生まれたのが「一六囃子」だ。基本となる4人構成は四物(サムル)から、サムルノリの「アンジュッパン」という「座って演奏する」スタイルも取り入れた。
「一六囃子」のベースは、日本各地の郷土芸能の囃子に触発されたグルーヴだ。そのグルーヴを一人が奏で、他のみんなが即興で演奏する曲となっている。
「全世界の人に『とにかくかっこいいリズム‼』と思ってほしい。そこからよくよく聞くと日本の郷土芸能がベースになっていることを再発見してくれると嬉しいです」(住吉)
タイトルは、数字をいれた。賽の目の数字から運任せの冒険的な物事をすることの意味を持つ「一六」をあてている。
曲の構成と変遷
「一六囃子」が2014年のECで初演された当時はもう少し長かったが、学校公演で子どもたちを飽きさせないようにアレンジした構成が曲の雰囲気にハマり、今の基本形となった。
住吉の創る曲は、曲の核となる部分を強く持つ半面、他の部分は自由度が高くなるものが多い。「一六囃子」はそのなかでも最たるものと言える。曲の入口と出口は大まかに決まっているが、その道中のアレンジ、即興は毎回異なる。
2018年の「巡」公演では、イントロからマリンバが入り、最後は太鼓が増える演出があった。2021年6月の浅草公演「歩」では、小野田太陽のアイデンティティでもあるアメリカ太鼓文化に根付く「斜め打ち」を取り入れた。
同年11月の「巴」公演では、佐渡の鬼太鼓のフレーズが入り、舞に合わせて音楽も高揚していくように組み合わせた。
「2022年に大阪の冬祭で演奏した時は、健太さんが一番低音のパートを担当していたんですが、途中から床をたたきはじめて、すごくスカッとした音になったのも新鮮でした。他にも、自分たちで何とかここに戻ってくることだけを決めて、旅に出て行くようなイメージで自由に即興で演奏したこともあります。それぐらい自由度の高い曲なんです」(住吉)
お囃子を取り入れつつ、決まったループ以外は基本的に即興をベースとするこの曲は、打ち手が変わると変幻自在に変わる曲でもある。
「ロサンゼルスの太鼓チームと一緒に演奏したときは、ベースはこっちで叩いていくから、ノッてくれればいいと伝えました。初めて出会う日本のトラディショナルなリズムを、みんな面白がってすごく喜んでくれました」(住吉)
最近では、2023年そして2024年のEC、城山パークセッションに出演しているパーカッショニストBen Aylon(ベン・アイロン)氏から教えてもらったセネガルのトラディショナルなリズムも一六囃子に取り入れられることに気が付いた。
「たたいてみると韓国フィモリのリズムと、セネガルのバラクという「ん」から始まるリズムは根底にあるグルーヴ感が一緒だったんです。国ごとで表面的なリズムやフレーズは違っても、根幹にあるグルーヴ感が一緒なのに気づいて『いろんな国が混ざれるな』って思えました。この共通の、独特な土臭いグルーヴ感は、西洋音楽のアプローチでは、いつまでたってもたどり着けません。だからこそ『一六囃子』では、人類共通の土臭いグルーヴ感、民族的かっこよさを打ち出したい。この曲は、そんな根っこがあるからこそ、いい意味で自由で何でもできる曲に育っていて、僕自身、すごくおもしろがっている曲でもあります」(住吉)
一六囃子(山踏み Ver.)
2024年11〜12月に「山踏み」で披露された一六囃子のアレンジは、5種の楽器を取り入れ、7名の演奏者で披露された。普段4人で演奏される一六囃子のこのアレンジは、公演前のレコーディングで録った音がきっかけで生まれたという。
「一六囃子は演奏者が4人という音のレイヤーが少ない上に、中低音が2人いる特殊なアンサンブルなので、いつもいい意味でスカッとする感じを出そうとしてきました。でも、鼓童選集3に入れるために録音し、一六囃子を音だけで聞いたら、想像よりも寂しい感じがして気になったんです。舞台で演奏する時は、場のアレンジや、グルーヴ感、打感でカバーして盛り上がるのですが、レコーディングをして単体で曲を聞いたときに、もう少し音の厚みを増やしたいなと思い、後から音を足してみました。そしたら、すごくいい感じになったんです。だから山踏みでは、普段の一六囃子と違って演奏者が増えて音の厚みも増やした、ザクザクしたグルーヴ感が出せたと思います」(住吉)
冒頭は住吉の地元、香川県の芸能、獅子舞のリズムからスタート。そこから「サムチェ」という韓国のグルーヴに鬼太鼓のリズムを掛け合わせ、徳島県の阿波踊りにインスパイアされたビートが流れたかと思うと、島根県の石見神楽のリズムに変化し、そこから韓国のグルーヴ「フィモリ」が入り、最後は再び阿波踊りのグルーヴで演奏された。
「山踏み」の公演を創る時に住吉がこだわったのは、クリエイションよりも、体に経験値を積むことだった。
「佐渡を歩く時、基本となるサムチェとフィモリという三拍子と四拍子のグルーヴを叩きました。一六囃子や他の楽曲にも、少しづつ、このリズムが侵食してくる様な、にじみ出ていくような舞台にすることを理想として、とにかく歩いたんです。一六囃子は、座って演奏する曲ですが、歩きながら体感しているリズムが体の中に落とし込まれれば、座っていてもそのリズムを出せるようになると思って取り組んだ作品でもあります。だから、山踏みは、普段の舞台とは違い、本当にギリギリまでクリエイションをしない作品でした。実際、公演3ヶ月前にも、まだ一つもできてない状態でも歩くことを優先しました。リハーサルだけでは見えない、培えないものが見えてくるような作品、曲を目指し、とにかく歩いて、経験値をみんなで積んで舞台に立ちました」(住吉)
山踏みでは、一緒に佐渡を歩いた韓国のチェさんが入ることで「一六囃子」に韓国のグルーヴが加わり、原点回帰的な面白さが生まれた。
「鼓童って、実はあんまり即興をやらない集団なんです。だからこそ今回チェさんと一緒にみんなの即興力を引き出せたことは大きな収穫だったと思います」(住吉)
2024年の「山踏み」では、理想とする『あらゆる民族的な音楽と通じ合える、地球の音楽』を目指し演奏された一六囃子。今後も、どんなメンバーで、どんな音を奏でるのかが楽しみだ。
「僕自身、すごくおもしろがってる曲でもあります。自分の中には、多面性があるんです。郷土芸能の土着のグルーヴを追求する作曲、アプローチ、そしてもう1個はもうそれを全く排除した『ミチカケ』の様なアプローチ。両方ともすごく好きなんです。僕にはその2本柱が常にあります。山踏みの次はこの二つを混ぜる作品を作りたいなと思っています」(住吉)
2024年11〜12月 鼓童十二月特別公演2024 「山踏み」 新潟、茨城、愛知、大阪、静岡、京都、東京
<2025年、ビルボードライブ でも「一六囃子」上演!>
2025年3月27日(木)・29日(土)鼓童 ビルボードライブ(大阪・横浜)
https://www.kodo.or.jp/performance/performance_solo/50979
演目データ
- 作曲者:住吉佑太
- 初演:アース・セレブレーション2014
- 原型:「和製サムルノリ」というコンセプトで誕生。低音、高音、鳴り物の楽器を用いて4人で座って演奏する。
- 日本各地の伝統芸能である囃子をベースに組み合わせは自由自在。舞台ごとで囃子や人数、楽器も変わる自由度の高い即興曲。
- 使用楽器(山踏みバージョン):韻(ひびき)、締獅子、ケンガリ(韓国の楽器)、ジャンガラ、桶太鼓
- 音源収録先『鼓童撰集Ⅲ』(2024年11月23日発売)