鼓童 演目図鑑/一六囃子(いちろくばやし)

季刊「鼓童」2024年11月(冬号)よりWEB拡大版
構成:坂本実紀、編集部 写真:岡本隆史、鼓童

曲の成り立ち

住吉は2014年、韓国の現代音楽である「サムルノリ」にハマっていた。惹かれたのは、自国のリズムで組み合わせたアンサンブルを演奏する姿。そこからインスパイアされ、「和製サムルノリ」をやりたいと生まれたのが「一六囃子」だ。基本となる4人構成は四物(サムル)から、サムルノリの「アンジュッパン」という「座って演奏する」スタイルも取り入れた。 

 「一六囃子」のベースは、日本各地の郷土芸能の囃子に触発されたグルーヴだ。そのグルーヴを一人が奏で、他のみんなが即興で演奏する曲となっている。

「全世界の人に『とにかくかっこいいリズム‼』と思ってほしい。そこからよくよく聞くと日本の郷土芸能がベースになっていることを再発見してくれると嬉しいです」(住吉)

 タイトルは、数字をいれた。賽の目の数字から運任せの冒険的な物事をすることの意味を持つ「一六」をあてている。

 

曲の構成と変遷

「一六囃子」が2014年のECで初演された当時はもう少し長かったが、学校公演で子どもたちを飽きさせないようにアレンジした構成が曲の雰囲気にハマり、今の基本形となった。

初演時の写真(アース・セレブレーション2014)

 住吉の創る曲は、曲の核となる部分を強く持つ半面、他の部分は自由度が高くなるものが多い。「一六囃子」はそのなかでも最たるものと言える。曲の入口と出口は大まかに決まっているが、その道中のアレンジ、即興は毎回異なる。

 2018年の「巡」公演では、イントロからマリンバが入り、最後は太鼓が増える演出があった。2021年6月の浅草公演「歩」では、小野田太陽のアイデンティティでもあるアメリカ太鼓文化に根付く「斜め打ち」を取り入れた。

 同年11月の「巴」公演では、佐渡の鬼太鼓のフレーズが入り、舞に合わせて音楽も高揚していくように組み合わせた。

「2022年に大阪の冬祭で演奏した時は、健太さんが一番低音のパートを担当していたんですが、途中から床をたたきはじめて、すごくスカッとした音になったのも新鮮でした。他にも、自分たちで何とかここに戻ってくることだけを決めて、旅に出て行くようなイメージで自由に即興で演奏したこともあります。それぐらい自由度の高い曲なんです」(住吉)

 お囃子を取り入れつつ、決まったループ以外は基本的に即興をベースとするこの曲は、打ち手が変わると変幻自在に変わる曲でもある。

「ロサンゼルスの太鼓チームと一緒に演奏したときは、ベースはこっちで叩いていくから、ノッてくれればいいと伝えました。初めて出会う日本のトラディショナルなリズムを、みんな面白がってすごく喜んでくれました」(住吉)

 最近では、2023年そして2024年のEC、城山パークセッションに出演しているパーカッショニストBen Aylon(ベン・アイロン)氏から教えてもらったセネガルのトラディショナルなリズムも一六囃子に取り入れられることに気が付いた。

「たたいてみると韓国フィモリのリズムと、セネガルのバラクという「ん」から始まるリズムは根底にあるグルーヴ感が一緒だったんです。国ごとで表面的なリズムやフレーズは違っても、根幹にあるグルーヴ感が一緒なのに気づいて『いろんな国が混ざれるな』って思えました。この共通の、独特な土臭いグルーヴ感は、西洋音楽のアプローチでは、いつまでたってもたどり着けません。だからこそ『一六囃子』では、人類共通の土臭いグルーヴ感、民族的かっこよさを打ち出したい。この曲は、そんな根っこがあるからこそ、いい意味で自由で何でもできる曲に育っていて、僕自身、すごくおもしろがっている曲でもあります」(住吉)

一六囃子(山踏み Ver.)

2024年11〜12月に「山踏み」で披露された一六囃子のアレンジは、5種の楽器を取り入れ、7名の演奏者で披露された。普段4人で演奏される一六囃子のこのアレンジは、公演前のレコーディングで録った音がきっかけで生まれたという。

「一六囃子は演奏者が4人という音のレイヤーが少ない上に、中低音が2人いる特殊なアンサンブルなので、いつもいい意味でスカッとする感じを出そうとしてきました。でも、鼓童選集3に入れるために録音し、一六囃子を音だけで聞いたら、想像よりも寂しい感じがして気になったんです。舞台で演奏する時は、場のアレンジや、グルーヴ感、打感でカバーして盛り上がるのですが、レコーディングをして単体で曲を聞いたときに、もう少し音の厚みを増やしたいなと思い、後から音を足してみました。そしたら、すごくいい感じになったんです。だから山踏みでは、普段の一六囃子と違って演奏者が増えて音の厚みも増やした、ザクザクしたグルーヴ感が出せたと思います」(住吉)

 冒頭は住吉の地元、香川県の芸能、獅子舞のリズムからスタート。そこから「サムチェ」という韓国のグルーヴに鬼太鼓のリズムを掛け合わせ、徳島県の阿波踊りにインスパイアされたビートが流れたかと思うと、島根県の石見神楽のリズムに変化し、そこから韓国のグルーヴ「フィモリ」が入り、最後は再び阿波踊りのグルーヴで演奏された。

 「山踏み」の公演を創る時に住吉がこだわったのは、クリエイションよりも、体に経験値を積むことだった。

「佐渡を歩く時、基本となるサムチェとフィモリという三拍子と四拍子のグルーヴを叩きました。一六囃子や他の楽曲にも、少しづつ、このリズムが侵食してくる様な、にじみ出ていくような舞台にすることを理想として、とにかく歩いたんです。一六囃子は、座って演奏する曲ですが、歩きながら体感しているリズムが体の中に落とし込まれれば、座っていてもそのリズムを出せるようになると思って取り組んだ作品でもあります。だから、山踏みは、普段の舞台とは違い、本当にギリギリまでクリエイションをしない作品でした。実際、公演3ヶ月前にも、まだ一つもできてない状態でも歩くことを優先しました。リハーサルだけでは見えない、培えないものが見えてくるような作品、曲を目指し、とにかく歩いて、経験値をみんなで積んで舞台に立ちました」(住吉)

 

 山踏みでは、一緒に佐渡を歩いた韓国のチェさんが入ることで「一六囃子」に韓国のグルーヴが加わり、原点回帰的な面白さが生まれた。

チェさんと住吉佑太

「鼓童って、実はあんまり即興をやらない集団なんです。だからこそ今回チェさんと一緒にみんなの即興力を引き出せたことは大きな収穫だったと思います」(住吉)

 2024年の「山踏み」では、理想とする『あらゆる民族的な音楽と通じ合える、地球の音楽』を目指し演奏された一六囃子。今後も、どんなメンバーで、どんな音を奏でるのかが楽しみだ。

「僕自身、すごくおもしろがってる曲でもあります。自分の中には、多面性があるんです。郷土芸能の土着のグルーヴを追求する作曲、アプローチ、そしてもう1個はもうそれを全く排除した『ミチカケ』の様なアプローチ。両方ともすごく好きなんです。僕にはその2本柱が常にあります。山踏みの次はこの二つを混ぜる作品を作りたいなと思っています」(住吉)

 

2024年11〜12月  鼓童十二月特別公演2024 「山踏み」 新潟、茨城、愛知、大阪、静岡、京都、東京

<2025年、ビルボードライブ でも「一六囃子」上演!>
2025年3月27日(木)・29日(土)鼓童 ビルボードライブ(大阪・横浜)
https://www.kodo.or.jp/performance/performance_solo/50979

演目データ

  • 作曲者:住吉佑太 
  • 初演:アース・セレブレーション2014
  • 原型:「和製サムルノリ」というコンセプトで誕生。低音、高音、鳴り物の楽器を用いて4人で座って演奏する。
  • 日本各地の伝統芸能である囃子をベースに組み合わせは自由自在。舞台ごとで囃子や人数、楽器も変わる自由度の高い即興曲。
  • 使用楽器(山踏みバージョン):韻(ひびき)、締獅子、ケンガリ(韓国の楽器)、ジャンガラ、桶太鼓
  • 音源収録先『鼓童撰集Ⅲ』(2024年11月23日発売)

 

初音ミクと鼓童そしてファンが繋いだ舞台「結 -MUSUBI-」までの道のり

初音ミク×鼓童 スペシャルライブ2023 ~結(MUSUBI)
<特集ブログ>

日本発の文化として、世界中でもライブを重ねてきた初音ミクと鼓童。共演が実現したスペシャルライブは2017年、2018年そしてコロナ禍でのライブ中止を経て2023年6月「結」として大好評の中、幕を閉じました。

今回は、機関誌『鼓童』でおなじみのコーナー「鼓童コラム」のWEB版として、伝えきれなかったライブの裏話や、ファンとの交流をご紹介します。

●聞き手・文:さかもと みき


初音ミク×鼓童のコラボレーションのきっかけ

━━初音ミクと鼓童が共演するきっかけは何だったのですか?

(北前船 代表取締役社長/洲﨑拓郎:以下洲﨑)2020年の東京オリンピックに向けて、日本のコンテンツを世界に紹介していこうという流れがありました。その中でNHKプロモーションさんより共演のお話を頂き、鼓童としても大変面白いと感じ、初音ミクを展開するクリプトンの方に、お話を持っていきました。

そうしたら意外なことに「やりましょう」とすぐお返事をいただけたんです。

初音ミクも鼓童も、お互い日本の文化を築きながら、海外でもいろいろ活動してるもの同士。なるべくして叶ったコラボレーションだったのかなとも思います。

━━2023年6月、満を持して3回目の公演が叶いましたね。

(洲﨑)オリンピックに向けて3回と決まっていて、2020年に「結」をやる予定でした。しかし、コロナの影響があり、中止せざるを得ませんでした。

でも、鼓童も主催者も、3回目をなんとかやらなければという気持ちを強くもっていたんです。そんな中で今回、開催半年程前に話が改めて立ち上がり、ライブが実現しました。

Photo: Takashi Okamoto

━━初音ミクとのコラボ自体、鼓童にとっても斬新なチャレンジ企画だったんじゃないですか?

(洲﨑)昔から鼓童を応援してくださる方たちにもポジティブに受け止めてもらいながらも「何というコラボレーションだ!」と、驚かれましたね。

音楽的には、鼓童はアース・セレブレーションで本当にいろんなアーティストの方々と共演させていただいてきています。いわゆるロックやポップミュージックとのコラボレーションとも経験がないわけではなかったので、初回の時も「いけるだろう」と思えたんです。

━━2017年、2018年、そして2023年、初音ミクと鼓童のライブで変化はありましたか?

Photo: Takashi Okamoto(鼓童メンバー/平田裕貴:以下平田)僕はその1回目から、鼓童で唯一の皆勤賞で3回とも出させていただきました。しかも、1回目の舞台は僕が鼓童に来て、準メンバーになってからの初舞台だったんです。なかなかできない体験で、本当に印象的な初舞台でした。

舞台では、初音ミクの曲に鼓童が入り、鼓童の曲に初音ミクが入るという形式で曲が展開されます。そこは変わらないんですが、僕が一番感じる変化は、コラボのあり方です。

 

1回目のときは、意外な組み合わせで混ざらなそうなものが、そんなに混ざっていないけどでも意外とあうじゃん!みたいな。その混ざりきってないのがコラボという感じでオモシロイと感じました。

2回目のときは、お互いに勝手知ったる部分があり、音楽的にもパフォーマンス的にも、こういう感じで来るだろうと想像しながら準備していけたので、1回目よりも混ざってきているコラボの面白さがありましたね。

今回3回目をやって思ったのは、コラボなんですけど、もはや「初音ミク×鼓童」というひとつのチームというか、作品になっているのを感じました。

Photo: Takashi OkamotoPhoto: Takashi Okamoto

━━太鼓をたたく 初音ミクに変化はありましたか?

(平田)1回目の公演の時、ミクさんは『千本桜』と『SHAKE』で太鼓をたたいていました。千本桜のモーションでは平胴太鼓を打っていたんです。

今回のテーマ曲『NEPPUU~熱風~』で平胴太鼓を打ってもらいました。ミクさんは6年前はちょっと素人感があったんですが、今回新たに作ったモーションで比べてみると太鼓が上手になっているのも面白かったですね。

『NEPPUU~熱風~』のMVに鼓童モチーフも登場~

━━鼓童がモチーフとして初音ミクの世界に登場していますね。

(平田)MV(ミュージックビデオ)を作るときに、最初のたたき台から「こんな感じになります」と、イラストでの動きを見せていただきました。「要望があれば教えてください」と言っていただいたので、細かいところまで相談させてもらっています。

例えば、鼓童として大事にしている鼓童の半纏の柄、他にも太鼓のロープの締め方も「こっちの方が太鼓をやってる人は共感してもらえると思います」と、僕のマニアックな視点も含め伝えました。そんなわがままを全部反映していただき、鼓童としてもこだわりのMVに仕上がっています。

曲の面では、普段ミクさんの曲ではもう既にバンドで音楽として完成してるものに、さらに太鼓を入れているので、ライブではシンプルに太鼓が聞こえないという課題がありました。でも、『NEPPUU~熱風~』では、作曲者のみきとPさんがそこもいろいろ考えてくれて、バンド、ボーカル、鼓童の太鼓の音もしっかり立つ曲に仕上げてくれています。

━━ライブでも『NEPPUU~熱風~』を筆頭に盛り上がっていましたね

(平田)今回はお互いへの理解がすすんでいるのもあり、演出も、鼓童の見え方も、音響的な鼓童の立ち方も、たくさん配慮していただきました。そういう意味でも、本当に対等にコラボレーションしていただけたと感じています。

初音ミク×鼓童スペシャルライブの一体感

━━会場のお客さんと一体になって盛り上がるライブでは、ノリノリの鼓童メンバーの笑顔が印象的でした。

(平田)すごく愛のある空間ですよね、あの空間。やりながら「これが平和か……」って思いました。

僕らはいつも舞台をお客様と双方向でやってるつもりですが、スタイル的にどうしても客席と舞台を混ぜ過ぎないシーンが多かったりもします。今回改めてミク鼓童をやって、例えば、僕が何かアクションしたらお客様も一緒に踊ってくれる様な一体感を、今後の鼓童の舞台でもできたら面白いなと野望を持ち始めました。

鼓童メンバー内でも初音ミクと鼓童のライブは、「この公演やるなら出たい」のランキングトップだと思います。今回も出たかったけど、他の舞台があったり、2020年に出る予定だったけど、今回出られなくてすごく悔しそうだったメンバーもいたりしましたね。

━━他のインタビューでお話した阿部好江さんも、このライブが終わった後の初音ミクロスがすごかったとおっしゃっていました。

(洲﨑)みんなこの空間がくせになるんですよね。私達も実際にやってみて驚いたのは、音楽的なところじゃない「初音ミクの世界」みたいなところを体感できたことでした。

普段の舞台だと、舞台と客席とわかれているのが、この企画だと舞台がずっと客席の後ろまで続いている様な感覚があります。お客様もみんな出演者なんですよね。

佐渡やNHKホールでのリハーサルで作品の中身はできていくけど、やっぱりこの舞台はお客様が入ってないと完成しないと思います。この企画は他の舞台に比べ、よりそれが強いというか……。

(平田)バーチャルなアーティストって、見ている側は受け取るだけになりそうですが、ミクさんの場合は、お客様が一緒に盛り上げようっていう強い気持ちを感じます。独特の世界観なんです。

Photo: Takashi Okamoto

スペシャルライブで鼓童が工夫したセットリスト

━━ライブのセットリストはどうやって決まったんですか?

(平田)まずセットリストのたたき台を、初音ミク側のプロデューサーの方が、用意してきてくれます。それをベースにしたセットリストの会議が序盤にありました。

「この曲でいこうと思ってるんだけど」、「これかこれどっちかにしようか迷ってる」などを話す中で、「2017、2018ではこういう流れだったので、この曲よりこっちの方がいいんじゃないですか」など、こちらからもリクエストを出すこともありました。

僕たちの意見もすごい柔軟に入れてくれて、会議の段階からも一緒に作っていった感がすごく強かったです。

今回僕としては、いかに鼓童を「壊していけるか」を考えて挑んでいました。鼓童ファンにも、ミクファンにも「ここにそれをもってくるの!?」って思ってもらいたいなという気持ちがあったんです。

Photo: Takashi Okamoto

例えば『祭りだヘイカモン』は、結構混沌とした曲なので、ビジュアルをもっとカオスにしたいと思って、バチを投げる弓ヶ浜の太鼓をもとにしたものを取り入れました。

「まだまだ行けるだろう」と思う反面、鼓童のブランドもあるので、ちょっとビビリながら、時々拓郎さん(洲﨑)に「大丈夫ですかね」って相談して……。結果、すごく好き勝手やらせていただきました。

━━テンションのあがる見せ方でしたね。初音ミクの曲でも、鼓童の曲でもお客さんの振りやノリが曲にピッタリ合っていて驚きました。

(平田)『巴』でも『三宅』でも、ライブを経るごとにお客様の曲に合わせる手拍子がだんだん上手くなっていったんです。曲に対してこういった手拍子がおきることは普段の舞台ではあまりないのですごく面白いですよね。一緒にフレーズを覚えてくれるし「そこでそうくる!?」みたいな面白さもあります。

今回、感動したのが1回目2回目で『巴』をやっていて、3回目も『巴』の予定だったんですけど、リクエストもあり急遽3回目最後の公演に『三宅』をやったんです。でもきっとお客さんたちはすごく復習してきてくれているから、『巴』の手拍子の準備をしているだろうなと思っていました。

想定していない曲になっているから「合わせづらくて大変だろうな」と思ったのですが、ふたを開けたらもう……見事にパパっと三宅の方に合わせてくれて……。2018年を覚えててくれた方がたくさんいたのだなと感じ、胸が熱くなりました。

(洲﨑)他にも私が今回一番好きだなと思ったのが、『LION』という獅子躍の感想です。曲を見たお客様が、SNSで踊り手が背負っている「ささら」を「ソフトあたりめ」って書いていた人がいたんです。こちらが予想もしない、そのすごい発想力が大好きでしたね。

(平田)今回は絶対に獅子躍をやりたかったんです!というのも、ミクファンの人たちに見たことないものを見て欲しくて。

特に今回工夫したのは、『LION』という曲に、獅子躍のオリジナルの要素も入れたことでした。あれが出てきた瞬間の客席の皆さんの表情を見て「それを見たかったの!!!」と思いました。

(洲﨑)SNSでも「あれは何だ」って結構話題になっていましたね。

Photo: Takashi OkamotoPhoto: Takashi Okamoto

(平田)あれはやってくれた2人のいろんな工夫のおかげです。実は舞台のスペース的にやめといた方がいいんじゃないかっていう意見もありました。

でも、昨年のEC(アース・セレブレーション)でギタリストのMIYAVIさんとご一緒したときに、MIYAVIさんを囲って3人で獅子躍をガンガンやるという舞台を既にやっていたので「いける」と思えました。いろんな出会いと舞台経験が繋がっていきますね。実は今回、担いでやる太鼓のステージングや動き方も、1回、2回目よりも充実させたいという思いがあったんです。そうしたら偶然、その前にMIYAVIさんとご一緒する機会がありました。MIYAVIさんはステージングでかなり走り回ってさまざまなことをやるタイプの方だったので、その経験も今回の公演にすごい活きたなと僕は思ってます。

あと電子和太鼓「TAIKO-1」も今回、バリバリ活躍してくれました。ローランドのデザインの方が直々にミク色の太鼓案を作ってくださったんです。

その太鼓は電子で直接データとして音を出せるものなので、それを利用して、後ろで僕がドンとやった後、その音がトリガーとなりリアルタイムで巴の紋が出せるように映像担当の方が作ってくださって……。

Photo: Takashi Okamoto

実はそういう、細かい部分でも、いろいろチャレンジしながら作っていったライブでした。ディレクターをする側としては、やりたいことや想いが溢れそうな舞台だからこそ、取り乱しすぎないバランスをとるのが大変でした。

抑えると面白くない、でも取り乱してもダメ。ちょっとこの加減というか、伝え方、コミュニケーションはすごく難しかったですけど、楽しかったです。

Photo: Takashi Okamoto Photo: Takashi Okamoto Photo: Takashi Okamoto Photo: Takashi Okamoto Photo: Takashi Okamoto

初音ミクファンとの舞台以外での交流

━━ 一体感がすごいライブですが、ライブ以外での交流もあるんですか?

(洲﨑)ミクファンの方が鼓童を応援してくれたり、SNS上での交流があったりします。

今回のライブの後にあった浅草公演でも、ロビーでミクファンの方に「NHKホール本当に良かったです」と、声をかけてもらいました。

SNSで「鼓童ヤバい」ってつぶやいてくれた方がいて、それを見て「これは行かないと」と、浅草公演に足を運んでくださった方もいました。そういう繋がりができるのは本当にありがたいですね。

(平田)多かったですね。何でわかるのかというと、アンコールの時だけ客席に緑のあかりがついてるんです。

ミクファンの皆さん、本当に総じて心配りがすごいんです。舞台本編のときは世界観もあるので派手に主張するということはせず、アンコールの時だけミク色のペンライトの明かりを胸の前にこっそりと出してくれていたんです。

━━心遣いを感じますね!

(平田)舞台を見に来てくれるだけじゃなくて、鼓童の単体の公演にお花を贈ってくださったこともありました。

他にも17年のライブの時は、二人のファンの方から手作りの鼓童の半纏を着せたミクさんのぬいぐるみをプレゼントしていただいたこともあります。

しかもその話には続きがあるんです!なんと今回ミクさんぬいぐるみに着せる「パッチと腹掛けを作りました」って持ってきてくださっていました。

━━舞台が進化すると共に、交流も更に深まっているんですね!

(洲﨑)初音ミクのお客様の面白いところは、作り手と、聞き手とがはっきり分かれてないところですよね。音楽を創る人たちが、他のクリエイターの人の音楽も楽しんでいる。

音楽だけじゃなくて、ぬいぐるみをはじめ、絵師、コスプレイヤーを含めたさまざまな聴き手であり、作り手の方がいて、垣根がはっきりわかれてない様なファンたちが集っているという面白さもあるなと感じます。

━━鼓童のハートビートラジオでも、ライブに向けて発信していましたね。

(平田)ライブ前日に公開したんですけど、それもミクファンの方々が瞬く間に聞いてくださいました。今までのハートビートラジオの中でも多くの方に聴いていただけた回になりましたね。

━━ファンとの交流で一番心に残っているのは何ですか?

(平田)ラジオでもお話しした個人的な話になるんですけど、初回に地元鹿児島から僕の初舞台を見におばあちゃんがNHKホールまで見に来てくれました。

で、いざ始まったら熱気もノリもすごくて「もうこれはもう最後まで見れるかな」って思っていたらしいんです。けど、隣の席の人が、ミクファンの方だったらしく「この曲ではペンライトをこういうふうに振ったらいいよ」とか「この曲は落ち着いて見ても大丈夫」とか、「このキャラだったらこの色だよ」みたいなのを教えてくれたおかげで最後まですごく楽しめたっていう話をしてくれたんです。

Photo: Takashi Okamoto Photo: Takashi Okamoto

(洲﨑)舞台上で作品としてコラボしてますけど、客席の中でも、鼓童ファン、ミクファンの交流がすごいたくさん生まれているのをSNSで見られたのもすごい印象に残っていますね。

また、ミクファンの皆さんはうちの様な舞台は見たことない人が多かったと思うんです。だから1回目の公演が始まったあと、SNSでワーッとお客様の反応をリアルタイムで見られるのが面白かったです。

「この演奏はなんだ」「なんだあの楽器は」と、劇場以外のところでコミュニケーションが生まれました。2017年にライブをやってみて、普段では感じられないそんな交流がありうる事を知れたのも、ちょっと新しい経験でした。

(平田)僕は鼓童のX(旧 Twitter)の担当もしてるんですけど、ミクさんファンの皆さんはXユーザーがすごく多いのもあり、今回のライブ前は特に、今までで一番熱い数か月間でした。

この5年間、公演が中止になってしまった後もXのリプライで「予定ないんだと思いますけど、僕ら待ってます」ってくださっている方がいたんです。でも、だんだん期間も空いてしまったし、そのうちこなくなるなと思っていました。

でも……本当にずっと、この5年間、結局絶えることなくそのリクエストがあり続けてくれました。

そして、この間のライブが終わってからも「結びと言わずに、来月でもやってくださいよ」と、メッセージをくれたりしていて、嬉しかったですね。


ライブ発表後、最中、そして終わった後も続いてきた様々な交流。初音ミクと鼓童そしてファンたちは、「またいつか」の思いをもち、今も繋がっています。

 

📢再放送決定!
初音ミク×鼓童 スペシャルライブ2023

再放送が決まりました
9月23日(土) BSプレミアムで放送です!

あの感動をもう一度、画面の前で🔥 ぜひご覧ください!

2023年9月23日(土) 23:30~ NHK BSP 📺

『独奏 〜みたり〜』作曲 北林玲央/「ミチカケ」楽曲紹介04

「ミチカケ」楽曲紹介『独奏 〜みたり〜』作曲 北林玲央

これまで自分は「奏」という楽器に触れる事が多く、前作の「童」ではソロで演奏する機会を頂きました。
本作品では独奏を元に3人で演奏しています。これまで奏という楽器に触れてきた中で蓄えてきた感覚やリズムを形にした独奏。そしてそれを3人で演奏してみる事によってなんとなくリズムだけではなくハーモニーも感じてもらえるような曲にしたいと思っていました。三者の個性と奏から出てくるさまざまな音色をお楽しみ下さい。

残り2公演! 「ミチカケ」公演会場でお待ちしております!

曲紹介は鼓童機関誌 2023 春号/演目図鑑「ミチカケ」より。

📸Takashi Okamoto (2022ツアーより)

「鼓童ワン・アース・ツアー2023〜ミチカケ」日本ツアー

『n』作曲 前田順康/「ミチカケ」楽曲紹介03

「ミチカケ」楽曲紹介♬ 03『n』作曲 前田順康


ひとが奏でる音以外にも、ひとが作り上げる音楽以外にも、世界には音が溢れています。

ひとが介在しなくても、音は既にそこにあって、音があるところに音楽は成立しています。

今回は"自然界を構成する「数」“をぼんやりとテーマにしました。

自分が何かを作り出すというよりも、身の回りの音やリズムを採集し、組み立てをしたという感覚です。聴き方の選択肢が多い楽曲になるといいなと思い、ランダムにも規則的にも捉えることができる構造にしました。

「n」は“Number”や“Nature”に由来しています。

 

残り2公演! 「ミチカケ」公演会場でお待ちしております!

曲紹介は鼓童機関誌 2023 春号/演目図鑑「ミチカケ」より。
📸Takashi Okamoto

「鼓童ワン・アース・ツアー2023〜ミチカケ」日本ツアー

『Lagrange Point』作曲 池永レオ遼太郎/「ミチカケ」楽曲紹介02

「ミチカケ」楽曲紹介♬ 02 『Lagrange Point』作曲 池永レオ遼太郎

「ミチカケ」の創作開始と同時期、NASAからジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げが行われていた。遠く離れた佐渡から、私は配信でその快挙を見届けていた。打ち上げは気の遠くなる様な工程数の中のほんの一つで、次の工程はラグランジュポイントを目指すことだった。
大いなる未知を目指して、重力の均衡点(ラグランジュポイント)を探し出していくプロセスは、作曲と似ている。「ミチカケ」に求められる音、自分の作曲、そしてお客様の心。それら全ての一時の均衡点となる曲になれたら本望である。


残り2公演! 「ミチカケ」公演会場でお待ちしております!

曲紹介は鼓童機関誌 2023 春号/演目図鑑「ミチカケ」より。
📸Takashi Okamoto

「鼓童ワン・アース・ツアー2023〜ミチカケ」日本ツアー