アイルランドへの旅2025/小野田太陽

デリー/ロンドンデリー上空。フォイル河畔の手前側に古い町並みや城塞が残っています。

昨年の船橋裕一郎のワークショップに続き、今年も鼓童は北アイルランド、デリー/ロンドンデリーに行って参りました!今回は齊藤栄一、西田太郎、私の3名での渡航となりました。
私自身初の北アイルランド(栄一さんは何と4回目!)。この時季のアイルランドは数分おきに土砂降りから晴れになったり、移り変わりの激しいお天気でした。「虹のふもとにレプラコーンの金壺が埋まってる」みたいな伝説が生まれるのも納得。今までに見た事が無いくらいにくっきりとした虹を何度も見ました。

街角に貼られたイベントのポスター

昨年同様、「Ibuki Taiko」のフィオナ・ウメツさんとのご縁で招待頂きました。今回は「フォイル・オボン・フェスティバル」への出演とワークショップをさせていただきました。

今回行ったワークショップは主に2種類でした。1種類目は楽曲のワークショップ。本番で演奏する提供楽曲などの演目のブラッシュアップに加え、本番を経て感じた事をベースに「Ibuki Taiko」の楽曲の編曲などを行いました。2種類目は「小木おけさ」の踊りでした。フィオナさんが夏の佐渡で体験した小木おけさの輪踊りを再現するために、リモートで事前に足運びなどをお伝えしてお祭り当日に飛び入りの参加者も交えて踊りました。1種類目の太鼓関係のワークショップは昨年のアメリカワークショップツアーを実施させて頂いたおかげで比較的落ち着いて進行できましたが、踊りのワークショップは経験がほぼなかったのでとても緊張しました。結果、どのワークショップも大盛況で、参加者の笑顔をたくさん見ることができて安心しました。

「Foyle Obon」での「小木おけさ」ワークショップ。

出発前にZoomで実施した「小木おけさ」のワークショップ。左は大井キヨ子。

鼓童の公演にはある程度の数の演奏者が必要で、今回のように2人で成り立たせるにはいろいろ工夫が必要でした。たとえば今回特別に「伊織」や「蒼き風」等の曲の2人バージョンを作ったり、個人をフィーチャーする演目をたっぷり盛り込んだセットリストを組みました。全てはフィオナさんの情熱に応えるため精一杯取り組みました。

私はフィオナさんとは約2年前から、「鼓童 太鼓の学校」を通じて関わらせて頂いてます。そのほかにも過去2回、佐渡でのワークショップもアシストしました。初めてお会いした時から一目瞭然で、とにかく太鼓を愛してやまない方なんです。勉強熱心でたくさん質問して下さいますし、太鼓を叩いている時はもちろんの事、太鼓にまつわる話をしている時も体全身から幸せオーラが溢れ出て、その場にいるみんなをも包み込み幸せにしてくれます。「フォイル・オボン」は彼女の想いにうたれ共鳴した方々が運営している地元民による地元民のためのお祭りです。

お祭りのテーマは「コミュニティ」です。地域の小学生にお祭りで飾る灯籠の絵を描いてもらったり、フィオナさんが率いる「Ibuki Taiko」、「Irodori Taiko」、「Himawari Taiko」による太鼓の演奏の他にも、盆踊りやよさこいなどを披露した踊り手チームや、太鼓とのコラボのために集まったケルト音楽家達など、地域の至るところから集まって一つのお祭りを作り上げていました。
アイルランド、特にデリー/ロンドンデリーではキリスト教のカトリック派とプロテスタント派の対立が根強く存在していて、信仰によりこの都市の名称が違ったり、ケルト音楽で使用する楽器も変わるとのことです。フィオナさんは日本で太鼓に出会って一目惚れし、以来デリー/ロンドンデリーに持ち帰って普及と探求に励んでおられます。宗派とは無関係の外国の楽器だったらみんなが楽しんで取り組めるはず。太鼓を身体全身で奏でて、音を浴びれば心も豊かになるはず。そんな信念のもと活動されています。

お祭り当日は雨模様でしたが、例年と変わらない、もしくはそれ以上のご参加がありました。それもそのはず、この日に向けてフィオナさんが目をキラキラさせて「鼓童が来るから絶対来なきゃダメ!」と会う人会う人に言って下さっていたそうです。日頃真剣に地域の方々と太鼓と向き合ってるフィオナさんだからこそ集まったのだと思います。
今回特に力をいれてくださったのが我々とのコラボ曲でした。「Inis (イニス)」というケルトの伝統的な音楽スタイルに日本の太鼓が加わった曲、そして鼓童提供楽曲の「うねり」に加え「遥か」も演奏しました。「遥か」はアイリッシュハープやボウラン(アイルランドの手持ちの太鼓)を加えた素敵なアレンジにしていただき、フィナーレに相応しい曲となりました。

イベント前日のリハーサルでボウランに挑戦する齊藤栄一。

「私たちは、太鼓とともに世界をめぐり、多様な文化や生き方が響き合う『一つの地球』を目指します。」そんな鼓童の活動理念を噛み締めつつ、太鼓が持つ力を改めて感じる事ができた旅となりました。演奏者としても成長できる貴重な体験でもありました。まだまだ「一つの地球」までの道のりは遠いですが、せめてフォイル・オボンのように、太鼓の周りだけであっても幸せな空間に出来るよう、我々も旅を続けてまいります。

前列右がフィオナさん

「2024年、アイルランドワークショップツアー」の記事

アイルランドへの旅/西田太郎

2024年の鼓童のヨーロッパツアー。ロンドン公演からの流れで船橋裕一郎のワークショップが実現することとなり、2人で北アイルランドを訪れました。

 ロンドン・ヒースロー空港から約1時間30分のフライトでアイルランド島へ。海岸沿いを飛ぶ飛行機の窓から見下ろすと、霧雨の合間からどこまでも続く緑の丘が現れます。訪ねるのは、北アイルランド第2の都市デリー/ロンドンデリーのフィオナさん(Fiona Umetsuさん)。400年以上もの間、宗教的、政治的、経済的に分断され、今も根深い対立が続いている北アイルランドで、太鼓や盆踊り、折り紙など日本の文化を通じて相互が気軽に交流できる環境作りを続けておられます。

彼女が主宰しているObon on the Foyle Festival Groupでは、毎年「フォイル・オボン Foyle Obon」という日本の「お盆」にちなんだ日本文化のイベントを開催。ちなみにこの町の名前(デリー/ロンドンデリー)は、政治的、宗教的立場によって異なる呼び方となるため、中立の立場を表明するために街を流れるフォイル川をその名称にしているとのことです。

Foyle Obon ウェブサイトより

太鼓の活動では、大人のメンバーによるグループ(IBUKI TAIKO)や、プロテスタント系とカトリック系の小学校の子どもたち両方のための太鼓のクラス(YUJO TAIKO)、10代のLGBTQの若者による太鼓グループ(IRODORI TAIKO)のほか、ケアラー(介護従事者)やメンタルヘルスに問題を抱えた方々のためのクラスを毎週開催されているとのこと。純粋に演奏を楽しむだけでなく、現代社会のさまざまな局面で太鼓の力が役に立っていることを教えていただきました。

 


スタジオに到着し、まずは太鼓を拝見。長くいい音で叩けるよう、日常の手入れについて船橋からアドバイスをさせていただきました。

 


ワークショップでは、基本の打ち方のクリニックに始まり、初挑戦だという「担ぎ桶」のワークショップと、鼓童提供楽曲「うねり」の締太鼓と長胴太鼓のパートをレッスン。担ぐことで打面が動くため、普段の台に載せた太鼓との違いに始めは戸惑う様子もありましたが、皆さんすぐに慣れて楽しそうに叩き始めます。さすが若い人は飲み込みが早いですね。

 


フィオナさんと私は去年「鼓童 太鼓の学校」を通じて出会いました。元々は1996年に英会話講師として初来日し、日本の太鼓の魅力に触れてこの活動を始められたとのこと。山形県出身のパートナーのKatsuさんと二人三脚で団体を運営されています。鼓童の舞台もお好きだそうで、チームの名前をよくよく見たら「IBUKI」も「IRODORI」も鼓童の曲のタイトルにありましたね。「現在はスタジオを間借りして太鼓の活動をしているけれど、いつかは自分たちの拠点を持ちたい」瞳を輝かせて力強くこれからの計画を語るお二人、早く夢が叶いますように。

 


街の中央を流れるフォイル川、その西岸にはカトリック系、東岸にはプロテスタント系の住民が多く住んでいます。この川に架けられた一番新しい橋は「ピース・ブリッジ」という名の歩行者専用の橋で、二つの地区を結び、人々が新たに出会い、一つとなることへの願いがこめられています。最後の夜、私も自分の足で渡りながらこの街の歴史と将来に想いを馳せてみました。

高いフェンスで隔てられた居住区や暴動の記念碑を目の当たりにしてもなお、この街の現状は日本から来た私たちには安易に語れぬ重さがあります。そんな中、よりよい未来のために活動を続けておられるフィオナさんや街の方々に改めて感服し、今回わずかながらお手伝いができたことを誇らしく思いました。

「鼓童 太鼓の学校」が始まって3年。試行錯誤の中ですが少しずつ太鼓の輪が広がっています。オンラインで鼓童の太鼓をお伝えするこの学校を通じて、世界の太鼓コミュニティの方々と手を携えれば、それぞれの場所で人々を結び社会を良くするお手伝いができるかもしれない。それも一つの「ワン・アース」への旅(ツアー)なのでしょう。

そんな光を感じたアイルランドへの旅でした。

Foyle Obon ウェブサイト: https://foyleobon.com