雅幸・佑太コンビ/住吉佑太
坂本雅幸という大先輩と、住吉佑太という新人のコンビ。
始まりはアマテラスの「草分け」という曲から。それに続いて「炯々」「霹靂」「カデン」「段」と、五年間一番近くで雅幸さんの姿を見てきました。
ありがたいことに僕はいつも、雅幸さんの対で演奏することが多かったんです。
「草分け」に関しては、アマテラス、金丸座、神秘、打男……
人前で演奏した数だけでも400回は越えているかもしれません。
「いったい、あと何回やるんだろうな」と雅幸さんはよく言いました。
「それもあと2回ですよ」と心の中で答えてみると、なかなか感慨深い思いが湧いてきます。
僕が鼓童に入って間もない頃、雅幸さんがヨーロッパツアーから帰ってきた春、初めて稽古をつけてもらいました。
演目は「SHAKE」の締獅子だったかと思います。
しかし稽古の内容は、フレージングでもストロークでもなく「打つ前の空気感」について。
「SHAKE」という曲をご存知の方はお分かりかと思いますが、締獅子のフィルインから始まります。その一打を打つ前に、何百人もの観衆の目や耳を、自分の手元に集める気持ちでと雅幸さんは教えて下さいました。
「エネルギーを発散したいときと集中させたいとき、胸の角度で自分を表現するんだよ」
今でも舞台に立つとき、この言葉を思い返します。
自分が前へ出るときは胸を開き、バッキングにまわるときは胸を落とす。音の強弱と胸の表現、まさに音楽と身体言語を一致させるということ。
雅幸さんとはよく酒を飲みました。国内でも海外でも、よく飲みに連れていってくれました。(というよりも僕が行きましょう!と声をかけることの方が多かった気もしますが)
初めて雅幸さんが住居棟(若手の独身寮)に飲みに来てくれたときは、嬉し過ぎて30分で酔いつぶれてしまい、雅幸さんを困らせました。
雅幸さんが30歳になる誕生日のときは、僕が企画して鼓童村の中庭で盛大にバーベキューをしました。
酒を飲みながら、本当に取り留めのない話から太鼓の話まで、たくさん話し込みました。雅幸さんの性格と人柄を知り、大事にしているモットーを学び、馬鹿なこともたくさんしました。
食べ放題じゃない焼肉に行って、すさまじい金額に恐れ慄いたり
優柔不断な雅幸さんのために、一緒に行ってギターを選んであげたり
二人で海へ飛び込んで、あまりに強い日本海の波力で岩に打ち上げられたり
僕がウクレレで雅幸さんがギターのブルースとも言えないセッションにハマったり
ドイツビールを飲みに行く前に二人で走り込んで「これじゃプラマイゼロですね」というと「定点的なゼロと、行って帰ってきたゼロは質が違う」という格言が生まれたり……
その1つ1つの思い出が、僕たちの音をピタリと合わせるための糧になっていきました。
どんなに薄着で寒そうでも「寒くない」と言い、どんなに顔が真っ青できつそうでも「余裕や」という。
変なところが負けず嫌いで、どんなに乗り気じゃなくても煽るとやってくれる
それでいながら飾らず気さくで、いつもそばにいたいなと思わせてくれる先輩。
雅幸さんが鼓童から卒業するということは、僕が雅幸さんから卒業するということでもあります。
いつだって目標にしてきた、雅幸さんより目立ちたい!という一心で、並んで舞台に立ってきた日々から。
あと2公演。新潟と佐渡。
打男ツアーは12月まで続きますが、後半戦は(石塚)充さんとダブルキャストで交代になるので、雅幸さんと一緒に舞台に立つのはあと2回です。
泣いても笑ってもあと2回です。
ぜひ、新潟公演へ!
ぜひ、佐渡公演へ!