演目図鑑WEB版「HITOTSU」[後編]

6月9日よりツアーが始まった、鼓童特別公演2018「道」。
浅草公会堂での5日間の連続公演まで、おかげさまで大好評のうちに終了いたしました。
ツアーの後半は、一部キャストを入れ替えて7月半ばより再開。関東、東北、北海道方面にお伺いいたします。

機関誌『鼓童』でおなじみのコーナー「演目図鑑」のWEB版として、この「道」公演で22年ぶりに演奏している「HITOTSU」をとりあげ、2回にわたってご紹介しています。

[前編]を読む

狩野泰一(作曲)が語る「HITOTSU」の誕生と
船橋裕一郎(演出担当)の「HITOTSU」への思い

聞き手:坂本実紀/構成:本間康子(機関誌編集部)

【「HITOTSU」が再演されることについて】

(狩野泰一:以下狩野)私も、よもや「HITOTSU」を後輩たちがやってくれる日が来るなんて思っていなかったから、もう、めちゃめちゃビックリで本当に、本当にうれしいですね。

今まで鼓童でも歴代色んな方々が色んな要素を入れて曲を作ってきたと思うんだけど、「HITOTSU」の表現とか、楽器群はまた独特だと思うんだよね。

それに今回は舞なんかも入れたりして、さらに新しい意味付けがされておもしろくなった。観た人があれをどう感じるか、みたいなところも楽しみですね。

「道」公演での「HITOTSU」(浅草公会堂にて)撮影:岡本隆史

撮影:岡本隆史

【「HITOTSU」の誕生】

(狩野)この曲を書いたのは、世界中を旅してアジアで音や楽器、人の雰囲気に懐かしさみたいなものを感じたことがきっかけでした。

チベットや中国などアジアを旅している時に出会った音に、インパクトはあるんだけど、ルーツを感じたり、懐かしさを感じてね。
欧米のクラシック、あるいはジャズやボサノバなどとは全然違う伝わり方をしてくるんですよ。

チベットの奥地で民謡を唄い合ったことがあるんだけど、どこか似ていて、親近感を覚えるんだよね。

お辞儀する感じとか、「まあまあまあ」と言いながら、無理やりお酒を注いで来る感じとか、乾杯をカンペイって言ったりするところとか。

「それは何なんだろう」と考えたんだけど、一つは仏教の伝播と共に声明、お経とか、仏教の法器、宗教のための音を出す道具と一緒に仏教文化が、儒教や各地の文字、言葉、文化も入り混じって日本に伝わってきたからかなと。仏教が、インドで発祥してチベットや中国、韓国に伝わり、仏教音楽がアジアの各地を経由して日本に入ってきた。

だから各地の音楽、文化の要素も日本には入っているわけですよ。
声の出し方、歌の節回しやメロディ、太鼓のリズム、重低音、金属音の低い音、高い音などなど。

中東からアジア全般、顔とか言葉とか考え方も全然違うのに、音楽的なところは、同じような楽器で似たような事をやってるような気がします。
言葉は全く分からなくても、音楽は分かる! 共通点を感じる。

だから、アジアの音楽の根っこが「一つ」につながっているっていう感覚があった

そういう体験から感じた共通点、各地の楽器を繋いで、一つの音楽を作りたいなと。
それでできたのが「HITOTSU」なんです

【「ソーナ」との出会い】

撮影:岡本隆史

(狩野)ソーナに出会ったのは中国を旅してる時だった。

チャイニーズニューイヤーの時、田舎道を歩いていたら、遠くから音楽が聞こえてきた。音に誘われて行ってみると、小屋の中でたくさんの演奏者が蛇の皮の二胡からコントラバスみたいな大きなものまで様々な弦楽器を弾いてた。

その中でソーナとか、中国の明笛(みんてき)とか銅鑼とか、スゴイ音楽が鳴ってて、面白くてずっと窓の外から覗き込んでた。

すると、帽子をかぶったおじいさんに「来い来い、中に入れ」って呼ばれたの。
「ありがとうございます」って入って、漢字で筆談しながら音楽を見せてもらった。

「我音楽家」「楽器有宿」って書いたら持って来いって言われて、ホテルから三味線や笛を持ってきて、津軽じょんがら節を弾いたらバカうけ! 私は中国から日本に伝わった楽器が、400年たったらこうなりました、という里帰りのような気持ちで演奏してた。

その時にそのおじいさんに教えてもらったメロディーがあって、その場で必死で覚えて帰ってきたんだ。今でも忘れられないんだけど、でもなんの曲か分からなかった。

で、ずっと後になってある中国人の前でその曲を吹いたら、「中国の軍歌」だって。日中戦争で中国が日本と戦った時に「日本人を殺せ」っていう、そういう歌だったんだ。

私はそうとは知らずに、その場にいる50人くらいの人と50度以上のお酒を返杯しながらご馳走になって、楽器を通して友達になって、それでその曲を教えてもらったって思ってたから…。
ずっと後になって、そのおじいさんが教えてくれたあの夜を結ぶ記憶が、そういう軍歌だったということが分かったわけ。

「昔は殺し合った時代もあったんだよ」って、おじいさんはそう伝えかったのか…今となっては知る由も無いけど…そういう思い出の中で会った楽器なんだ。
アジアを感じる時、そういう風景、みんなの顔なんかが、浮かんでは消える思い出の一つになってる。

ソーナは、そんな旅の中で出会ったインパクトの強い楽器。

私には当時、鼓童の公演の時、周りが太鼓でドカドカやる中、マイクを使わず笛一本で音を通さなきゃいけないという大変さがあった。

だから、大音響の中でマイクなしで響いてくる楽器、ソーナに出会った時に「これだ!」って。

今度はこれを日本に伝えたい、これを使った曲を書きたいたいって、思ったんだよね。

 

【フリージャズ】

(狩野)「HITOTSU」は心臓の鼓動のように、脈打ち続けていく。

基本ビートがたった一つで、ずっと流れてる。

水が流れて川になって海になるように、「ドンスタッ、タタ、タカタカタカタカ」のリズムが始まったら、変化することも止まることもない。
それがどんどんどんどん大きくなっていく。じりじりじりじりね。

「HITOTSU」は基本ビートが一つで、ルート(根音)も一つ。
サビもなく、転調もなく、音階の変化もない。

そして、「ドンスタッ、タタ、タカタカタカタカ」という基本のリズムにはのらず、間と呼吸と気迫で
「ドン、バシャー!!!!ガガーン!ドンチ、ドンチー!」って、太鼓、シンバル類が叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジア独特の「おろし(間が詰まっていくリズム)」が炸裂する。
「七五三(7拍・5拍・3拍)」も洒落で入ってくる。大音響でビックリさせて、お洒落じゃないけど(笑)。

決まったリズムを繰り返してグルーヴを作り、そのビートにのってフレーズを叩き、それにメロディーがのり、繰り返すのが、多くの音楽では当たり前になってるけど、全く違う作り方をしたんだ。

でも、基本ビートがないフリージャズだと、多くの方々にとって心地よくない音楽になってしまうかもしれない。

気持ちいい基本ビートが流れ続けて、なんとも言えないインパクトのあるメロディが流れてきたと思ったら、すごい音、フレージングが入ってきて、で、またそのほとぼりが冷めると次のメロディがきて、っていうのを繰り返しながら、全体がだんだんクレシェンドしていく。瞑想と覚醒。

基本のビート、揺るがない鼓動があるからこそ、何やっても許される、アジアのフリージャズなんですよ。

答えは一つじゃない

(船橋)狩野さんには鼓童村での通し稽古を見ていただきましたが、公演では幕や照明が入ることで印象がかなり変わります。

実は、先日、この演目を劇場版の学校公演でやったんですよ。

一度舞台でやって、見てみたいというのもあったし、この曲に関しては子供に寄り添いすぎず、「大人の世界を、あの世界観をみせよう」と、逆に切り替えて持っていきました。

狙い通りというか…中学生シーンとしてましたね(笑)。

学校公演での「HITOTSU」(撮影:鼓童)

(狩野)分かりやすいものをやってあげるのもパフォーマーとして大事なんだけど、逆に訳の分からないものを大の大人が真剣にやって「なんじゃこりゃ」って人の心を動かすのもおもしろいですよね。

なんでか分からないけどイメージだけ残って、音だけグルグル頭ん中で回っちゃって、後からあれはこういう意味だったんだって人が思ったり…そういうのもいいよね。

(船橋)今、ネットで調べればすぐ何でも分かるようだけど、実際、本当は分からないことだらけなはずなので…。すべてに答えがなくてもいいんじゃないかなと思って。

(狩野)この曲は、例えば人間の一生かもしれないし、国ができて滅ぶ、あるいは宇宙が生まれる過程とか、何を想像してもいい。混沌として、なんだか分からないけど「なに?!」って印象が残ればいい。

「HITOTSU」だけでなく、抽象的なアートっていうのはみんなそういう性格を持っている。千人が聴いたらそれぞれが全然違うストーリーを受けとめて、宇宙を感じたり生命を感じたり…全部正解って言うか。

だから、答えは一つじゃないわけです。

【「道」の中での「HITOTSU」】

(船橋)天気とか、雨雲が重くなると憂鬱な気分になってくるじゃないですか。でも重たい気分の中から、光に向かっていくようなイメージを感じました。

「HITOTSU」は聖なるもの、すなわち大太鼓の前の静と動…空間をゆがませた上で、ほこりが立つイメージ。
そして無音の場面を作りたくて、大太鼓の前の静寂で使おうかな…とイメージが浮かんできて。

この曲は、公演の中でも「おっ」という美しいシーンになるんじゃないかと思います。

(狩野)公演、すごい期待してますよ。
こっそりどっかに、観に行きたくなっちゃったな(笑)。

 

 

 

 

(完)

 

狩野泰一(Yasukazu KANO)プロフィール

篠笛奏者 / 篠笛講師 / 音楽プロデューサー

1963年東京生まれ。一橋大学在学中にジャズドラマーとしてライブ活動を開始。1987年「鼓童」に参加し1997年に独立。佐渡島に暮らしながら「篠笛」の新たな音世界を広げて2005年にメジャーデビューし、多くのCD、教則DVD、楽譜集等を出版。これまで世界30カ国で2000回を越える公演をし、笛・祭り文化の再興のため篠笛講習会を全国、世界で展開。NHKテレビ「日本の話芸」テーマ始め、映画、演劇等の音楽プロデュースも手がける。天皇皇后両陛下の御前演奏、ミラノ万博2015出演も務め、東京ドームで空手世界チャンピオン宇佐美里香の演武とコラボ他、香西かおり、サリナ・ジョーンズ、南こうせつ、河村隆一、伊藤君子など多くのア-ティストと共演している。中西圭三、宮本貴奈とのユニット『WA-OTO』も好評。最新作は、2017年リリースのCD『SOUND OF THE WIND』。

鼓童を離れた後も、鼓童の研修生、メンバーへの篠笛の指導を行っている。

「HITOTSU」のほか、鼓童在籍中に「SOBAMA」(1992年CD『回帰』に収録)、「A-SON-JA-O」(1996年CD『いぶき』に収録)などを作曲。

オフィシャルサイト http://yasukazu.com/

 

CD『回帰』は鼓童オンラインストアでご購入いただけます。

 

鼓童特別公演2018「道」全国ツアー

 

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