[特集・ミチカケ]鼓童の新衣裳が誕生するまで

鼓童の新衣裳が誕生するまで

文・坂本実紀(ライター)

太鼓打ちの腕を浮かび上がらせ、多様な見せ方でミチカケの世界観を広げた新衣裳。

今回は、鼓童代表で衣裳を依頼した船橋裕一郎と、新衣裳を手掛けた堂本教子さんのお二人に、衣裳の誕生秘話をお聞きしました。 

鼓童の印象と依頼の成り行き

―船橋さんが新衣裳を堂本さんに依頼したきっかけを教えてください。

船橋主たる衣裳は半纏としながら「半纏ではない衣裳も作っていきたい」と思っていました。

ある時、Noismさんの舞台を鑑賞した時に金森さんに堂本さんを紹介していただけたんです。

―堂本さんは依頼を受けた時どう思われましたか?

堂本さん:依頼を受けてぱっと頭に浮かんだのが、月見寺とも呼ばれる本行寺にあった石碑にかかれている「ほつと月がある東京に来てゐる」という、種田山頭火の句です。

そうして、鼓童と言えばやはり太鼓。すごい運動量でダイナミックな動き方もできるほうがいいなと考えると「どこまでやったらいいんだろう」と考えながら、デザインと実用性の塩梅をみながらすすめました。

衣裳のイメージ共有

―鼓童からはどんな要望を伝えたんですか?

船橋:まずミチカケや、衣裳の色は月と海のブルーな感じということ。そして、自分の中にあったイメージもお伝えしました。

デザイン面では、鱗文様の様な強い印象や意味を与えないもの、和風でも洋風でもないフラットであまり時代性もないようなもの、男女を超えてユニセックスなもの、半纏と同じ舞台に上がってもいい汎用性のあるもの。

仕様面ではフードを取り入れ、太鼓打ちの腕が見える様にノースリーブでお願いしました。さらに片側や両側出せたり、同じ衣裳だけど、トランスフォームできるようなバリエーションのある衣裳ができると嬉しいです!と、どんどん要望をお伝えしていきました。

堂本さんは、Noismさんの様な身体性を重視するカンパニーと仕事をされているので、信頼感はすごくありました。

―イメージもさながら、使いやすさも重視した依頼だったんですね

堂本さん:最初はコンセプトから静かな、雲の間の月の満ち欠けの様な間(はざま)のような抽象的なものを考えていて、染めてぼかす手法も考えていたんです。

でも、着数が多く、機能性が高く、乾きもいい、いろいろな要望を叶えられるものが必要でした。そこで、軽量化のため、時に省くこともしながら扱いやすい衣裳を目指し、最終的にあの生地を選んだんです。

フードをつけるとちょっと重くなったり、腰にかかってしまうので、当初はフードの大きさや、裏地に銀を入れるかなども悩みながらすすめました。

和の要素を取り入れるためにも、上半身は脱げて下半身は動かない仕様を着物から取り入れています。着物はよくできてるんです。それでも、試作品時は紐が多く「片肌脱ぎ」や、「諸肌脱ぎ」ができて、かつ動けるようにするのは大変でした。

 

理想の叶った衣裳完成

船橋:堂本さんは、「衣裳が邪魔しちゃいけない」と常におっしゃってくれました。一番最初のデッサンはある意味違和感がなかったのですが「もうちょっと自由にやっちゃってください」と伝えると、次に来たものがもう「これです!」という出来上がりでした。

完成品を着てみると、みんな「格好良い!動きやすい!ストレスもない」って嬉しそうに言ってくれて手ごたえも感じました。本当に素晴らしかったです。

堂本さん:稽古や舞台も見させてもらいながら1年ほどかけてじわじわできてきましたね。

船橋:堂本さんも舞台がお好きなので、いくつか最近の鼓童の作品を見ていただきながら「こうじゃない舞台になっていきます」ということをお伝えしてたんです。

堂本さん:舞台のお声掛けもすごく嬉しかったです。衣裳の色は決まってたんですが、衣裳の裏地に翻って見える銀色には、佐渡の風が舞うイメージを込めています。

船橋:私には、裏に見える銀のイメージが全然なかった。一緒に舞台を楽しみながら最前線のプロフェッショナルの方にお任せすることで私の要望や想像している以上の素晴らしいものが出来てくるのは一番嬉しいですね。

「こういうのがあるといいかもよ」「こういう着方もあるよ」とご提案もいただけて、想像力をかきたてられ、舞台の奥行きがさらに広がり、どんどん展開していくのも面白い作業でした。この色々な制約の中で本当にここまでやっていただけて嬉しいです。

 

―理想の衣裳での舞台はどうでしたか

堂本さん:初めてミチカケを見せていただいたときは「すごく活用されているな」と思いました。特にフードは表情を消すから、影にもなる。ミチカケ、いい作品ですね。宇宙にいるような、曼荼羅の様な。

船橋:ありがとうございます。今回の様に、自然や宇宙のといった世界観の中で人間の感情的な部分を消したい場面もフードによって効果的に作用し、メンバーがその音の世界にさらに入り込むのにも役立っています。

今の鼓童はもちろん、老若男女いるうちのみんなが着られる新衣裳。ミチカケ以降も、着ていきたいです。

 

舞台・衣裳撮影: 岡本隆史

 


堂本教子プロフィール■

コンテンポラリーダンス、舞踏、演劇、歌舞伎、オペラなどの衣裳デザイン製作。1999年と 2003年には、チェコ・プラハ カドリエンナーレ国際舞台美術展出展。2000年、文化庁芸術家在外研修として、バットシェバ舞踊団の衣裳デザイナーRakefet Levy に師事。99年伊藤熹朔賞奨励賞、第36回橘秋子賞 舞台クリエイティブ賞受賞。


船橋裕一郎プロフィール■

太鼓芸能集団 鼓童 代表。考古学を専攻していた学生時代に太鼓に出会う。1998年に研修所入所。2001年よりメンバーとして舞台に参加、太鼓、鳴り物、唄などを担当する。これまでに「BURNING」などの作曲も手掛け、近年は「道」「鼓」「童」など「ワン・アース・ツアーはじめ2021年オーチャードで開催された「鼓童40周年記念公演」、2022年新作「ミチカケ」で演出を担当。また、読書やプロレス、寄席や宝塚鑑賞など様々な趣味を持つ。柔らかな口調と人情味溢れる人柄でメンバーの頼れる相談役である。2012年より副代表、2016年1月より代表に就任し、グループを率いている。

鼓童「ミチカケ」

Photo: Takashi Okamoto / Art Director: Hiroomi Hattori (COM Works)

森羅万象、煌めきの音。

近年の鼓童全体の表現を総合的に手掛ける船橋裕一郎と、舞台の要となる楽曲を次々と生み出している住吉佑太が連携し作り上げる、全曲新曲で上演予定の革新的な意欲作。

夜明けから深夜まで変わり続ける自然界のリズム「日の出日の入り」「潮の満ち引き」「月の満ち欠け」。

その長い周期感や、「数」に秘められた律動を太鼓音楽で探求する新作を、全国主要都市にてお届けします。

●演出:船橋裕一郎

●音楽監督:住吉佑太

●出演者(予定):中込健太住吉佑太池永レオ遼太郎北林玲央米山水木小平一誠前田順康三枝晴太渡辺ちひろ小野田太陽中谷憧野仲純平小川蓮菜(準メンバー)

Photo: Takashi Okamoto, Katsumi Omori
Art Director: Hiroomi Hattori (COM Works)

下記、公演地別の詳細です、随時更新いたします。

※例年12月に行なっている文京シビックホールでの連続公演ですが、改修工事に伴い2022年内の公演予定はございません。

日程