鼓童「ミチカケ」
80分があっという間に終わる、太鼓で切り開いた新世界━━━
80分があっという間に終わる、太鼓で切り開いた新世界
鼓童「ミチカケ」2022/11/23 佐渡初演レポート(文・坂本実紀/写真・岡本隆史)
鼓童の全新作、新衣装でつくられた舞台「ミチカケ」。立体音響作品という全く未知な舞台は、「知らないのに、なんか知ってる」と錯覚を覚えるような不思議な場面がいくつもありました。
初演となる佐渡公演当日、ホールのロビーは開場前にすでにたくさんの人でいっぱい。熱気と期待に溢れていました。入場口の列は長く伸び、開場後は席がどんどん埋まっていきます。
幕が上がると、音の流れの中でイメージが浮かんできます。雨や風、灰色の重たい雲の動く音。舞台上で、時に頭の中で、様々なめくるめく景色の展開。日常から切り離された圧倒的世界観への招待に、会場全体が緊張感で包まれました。
曲がすすんでいくと、圧巻の太鼓パフォーマンスに曲中も拍手が贈られ、そのリズムや動きに観客は釘付けに。そんな展開に、演奏者のギアがさらにあがるのを肌で感じるのも興味深かったです。
きいたことのない音や、衣装で表現される陰影と肉体美、リズムを飛び越えた周期感という表現。鼓童の新しい姿や表現、世界観は、まるで木から伸びた枝葉のように自由に広がっていきます。同時に、まがうことなき鼓童の濃いDNAが根本にあることを思い知らされる舞台でもありました。
太鼓からこの音がするの?という発見や、太鼓演奏のイメージしかない演奏者も参加する笛の重奏は圧巻かつ新鮮です。吊るされたドラはやわらかで遠くまで広がる音を響かせ、時として太陽や月のメタファーとして想像をかきたてます。照明の効果で手が浮かんで見え、衣装のフードが表情を隠して不気味さと得体の知れなさを加速させる。コミカルな曲では、演奏者が音に操られているように動き、つい口元が緩んでいました。
コンセプトに統一感があることで、どんどん新しい鼓童の世界に引き込まれ、80分があっという間に過ぎ去りました。最初、まばらだった拍手が、会場全体で大きくなるのと同時に、演奏者と観客の気持ちが一緒に高まっていきます。
音が星の様にゆっくりと流れ、風の様に回転し、強い渦になってぱっと消え、時に跳ね、楽しそうに遊び、羽ばたいていく。最後は、太鼓も音も、まるで生き物のように大声で吠え、まるで掴みかかってくるようでした。私にも、見えないはずの音が見える。なるほど、これが音の立体作品かと、舞台の後も興奮が冷めません。
コロナ禍ということもあり、ずっと画面の中の鼓童を追う日々でした。でも、全身で受ける太鼓の音の波、汗の見える距離で演奏者のだすヒリヒリした一打を目の当たりにし、一緒に見ている観客と胸いっぱいの同じ気持ちでする拍手は、やはり舞台の醍醐味です。
面白かったのは、鼓童が、観客の曲の「ここがピークかな」という期待をゆうに越えてくる熱量と超絶技巧を連発していたこと。観る者の「まだいくの!?」という感動と心の高まりが伝わっているのを、閉幕挨拶での演奏者たちの笑顔で確信しました。
まっさらな気持ちでも、鼓童の古参のファンでも、大満足できる舞台「ミチカケ」。難しいことは考えず「太鼓、すごい!」を分かち合うために、是非足を運んでみてください。
鼓童「ミチカケ」ツアー情報
鼓童「ミチカケ」11月ー12月ツアー
- 2022.11.23(水) 14:00 新潟県佐渡市 アミューズメント佐渡 大ホール
- 2022.11.26(土) 〜2022.11.27(日) 14:00 新潟県新潟市 新潟県民会館 大ホール
- 2022.11.28(月) 18:30 宮城県仙台市 トークネットホール仙台(仙台市民会館)大ホール
- 2022.11.30(水) 18:30 広島県広島市 上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
- 2022.12.03(土) 〜2022.12.04(日) 13:00 京都府京都市 京都芸術劇場 春秋座
- 2022.12.09(金) 18:30 愛知県名古屋市 名古屋市公会堂
- 2022.12.11(日) 14:00 香川県観音寺市 ハイスタッフホール(観音寺市民会館)大ホール
- 2022.12.13(火) 18:30 東京都荒川区 サンパール荒川 大ホール
- 2022.12.15(木) 18:30 埼玉県さいたま市 埼玉会館 大ホール
- 2022.12.16(金) 18:30 千葉県千葉市 千葉市民会館 大ホール
- 2022.12.18(日) 16:00 東京都世田谷区 昭和女子大学 人見記念講堂