宮本常一先生からの手紙、そして「ひとつの地球」/洲﨑拓郎

鼓童が目指す「ひとつの地球」について考えています。

長い歴史の中で、人は自分自身や家族、誇りを守りたいと思い、より良い暮らしを求め、新しいことに挑戦し、自然を理解しようと努めてきました。同時に、それらが隣人に侵されるのではないかと恐れ、また押し入って略奪し、争い続けてもきました。

何千万、何億という人々のそうした動機に基づく、国家間の綱引き、そして悲劇的な紛争。毎日メディアで伝えられる一つ一つの出来事に対し、理屈や言葉で向き合おうとすると、無力感にさいなまれます。それはたいてい今に始まったことではなく、何十年、何百年、時に何千年も前から、地域や記憶に凝り固まっているものに突き動かされているからです。

先日、1975年に宮本常一先生から、鼓童の前身である佐渡の國 鬼太鼓座の団員に宛てた手紙が見つかりました。フランス、パリのピエールカルダン劇場で連続公演を終えた当時のメンバーが投函した手紙に対し、お返事としていただいたものです。

 

そこには、以下のように綴られていました。

世の中が便利になりすぎて、佐渡もパリーもあまり距離がなくなりました。ただわれわれにはまだ大きな距離感があり、感覚の上でも隔絶したものがあります。いま一番大切なことは、そうした民族間の隔絶感をなくすることだと思います。

〜中略〜

戦争をなくするためにはどれだけの手続きと努力が必要なのかを考え続けています。皆さんが太鼓を叩いているのもおなじ希望を持ってのことと思います。

「民族間の隔絶感」は、47年を経た今になっても、残念ながらなくなっていません。交通や情報の流通が進化しただけでは変わっていかない、「感覚の隔絶」をどうするか。

何千万、何億という人々には、国家の枠組みとは別に、それぞれに日常と暮らしがあります。声高に聞こえてこない、ささやかで、理屈や言葉にならない喜びや、時に悲しみ。そうしたものは民族の違いや国境に左右されず、脈々と続いてきました。

それらが祭りや芸能、音楽で横に繋がり、そうして笑顔や喜びが、凝り固まった恐れをすこしずつ溶かしてくれないだろうか。そうすれば、地球がすこしずつひとつになっていくのではないだろうか、と考えます。

1984年の開始以来38年目を迎えた「ワン・アース・ツアー」、2月〜3月に欧州9カ国を巡ったこの旅は、さまざまな困難に遭いながらも、多くの方々に支えられ、本日千穐楽を迎えることができました。心から感謝するとともに、このツアーも「ひとつの地球」に、ほんの僅かでも近づく一歩になっていれば、と願わずにはいられません。

わたしたちは、太鼓の響きが生み出す「共感共同体」を作る活動が、47年前に宮本先生から頂いた手紙に対する、ひとつの答えになり得ると信じています。疫病や紛争に対し、恐れに囚われず、笑顔を交わし合うことが出来る人間の心を信じ、太鼓と芸能を楽しみ、これからも活動を続けてまいります。

宮本常一
民俗学者、農村指導者。最初期の鬼太鼓座の活動に大きな思想的影響を与え、その知識や発想は現在に至っても、鼓童の活動の根底に脈々と受け継がれています。

写真:Radoslaw Kazmierczak

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