鼓童若手連中⑩『KAIGARABUSHI』/山脇千栄
太陽劇団はどこか鼓童村と似ていて、
アリアンヌさんはいつも母のように
私たち鼓童を見守ってくれています。
気づけばすっかりこの温かさに安心していて、
劇団全体を包んでいる柔らかい愛を全身で受けながら、日々豊かに過ごしています。
私は、舞台で「貝殻節」という唄のソロを歌っています。
貝殻節は、鳥取県の賀露地方の漁港に伝わる民謡で、手漕ぎ船で重労働の帆立貝漁に出る男たちとその家族の心情が歌われている労働歌です。
初めて聞いた時、歌詞の意味はすぐには
わかりませんでしたが、
旋律で心が震えたのを覚えています。
それ以来、好きで歌い続けています。
去年のECの若手連中発足の際、
「貝殻節 歌える?」と遼太郎さんから
鼓童の舞台で唄を歌うきっかけを頂きました。
今回、貝殻節の持つ日本の情景が
パリの皆さんにはどう伝わるんだろうと
佐渡で稽古している期間から
ずっと考えていました。
パリにきて3日目に一人の太陽劇団のスタッフが
「悲しいメロディだけどこの唄が好き。
唄を教えてくれないか。」
と話しかけて来てくれました。
一緒に歌っていると
だんだん周りが口ずさんでくれるようになり、
今では鼓童と劇団の方達で
終演後の乾杯で合唱するようになりました。
不思議ですが、確実に唄が言葉の壁を超えてみんなを繋げています。
「この唄を聴くと、毎回泣きそうになるんだ」と言ってくれる劇団スタッフの方もいました。
昔の漁師がぽろっと口ずさんだ旋律には
きっと寂しさや厳しさ、愛、生きたい、家族を守りたいという想いと願いが
自然に込められていたんだろうと感じます。
情景は違えども、日本人にもフランス人にも、どこかリンクする部分があるのでは、と思います。
スタッフの一人が貝殻節と同じような
「woman of fisherman」
という唄を教えてくれました。
女性がフランスの漁師に向けて歌う唄だそうです。
この唄もどこか悲しいですが
とても素敵な唄でした。
この唄がフランスにあり続けてきたように、
日本で大切にされてきた貝殻節を
精一杯心を込めて歌い、
その想いがフランスの人々の心のどこか奥底で共鳴できるといいなと思います。