対流/前田順康
雪のない佐渡の1月を過ごし、冬に油断したままヨーロッパに到着しました。
言うまでもないのですが、寒さに容赦のないヨーロッパ。
布団のような上着を着ていても、耳や指が、外気と触れていると、取れてしまいそうです。
それでも、室内は暖かく、特に、エアコンがかかるホテルの部屋は暑いくらいで、乾燥も助けて、手洗いした衣装があっという間に乾いてしまいます。
冬の暖かい部屋の扉を開けると冷たい空気が勢いよく入り込んできて、空気が混ざっていきます。
劇場でも、空気の対流に似たことが起こるのを感じます。
客席には今まさにその国の日常を過ごしている人が座っていて、
幕を隔て、ステージの上には、日本の職人さんが作った太鼓が並び、ふんどしとハチマキを締めた日本人が立っています。
そのふたつの空気、幕が上がると同時に“対流“が起こります。
劇場の空気がかき混ざり始め、終演の頃にはその国のものでも、鼓童のものでもない空気が練り上がっています。
僕はこの舞台で起きる“対流“にいつもゾクッとします。国内でもそうです。
昼公演だと、夜公演だと、雨の日だと、、、
同じ空間の中で、その瞬間に生まれてくる音を、鮮度そのままにお互い味わって。
写真や映像では捉えきれない、その場にいる人だけが感じられる空気が生まれて。
今日、Youtubeで、Netflixで、Spotifyでありとあらゆることを享受できます。
そんな時代でも、鼓童はめちゃくちゃに大きな太鼓を運び、屋台を組み、その日の為のバミリをし、その日の為のチューニングをして、汗まみれで太鼓を打ちます。
食事が食卓の空気によって美味しくなるように、ステージの上、緞帳の裏にどんな空気を作って待っているかが大事だと思っています。
鼓童にとって52カ国目となる、リトアニアの公演を終えました。
40年近く、52の国と交換してきた空気を持って旅は続いています。
今日の劇場はこちら (2020年2月4日)
- サル・プレイエル[フランス・パリ] (グーグルアースで見る)