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芸術監督坂東玉三郎氏演出 第4弾「混沌」稽古場より
芸術監督坂東玉三郎氏演出 第四弾 「混沌」
和太鼓の響きの中に、きらびやかなドラムの夢が通り過ぎる… 芸術監督・坂東玉三郎演出の最新作は、次々と現れるイマジネーションの旅。緊張とリラックス、静けさと喧騒、そして混沌と融合。叩き奏でる音色が織りなす心地よい時間をお届けします。
鼓童村での「混沌」稽古より
今年4月に行われた「混沌」の稽古の際、メンバーに話を聞きました。
住吉佑太
●今回、新しい試みはありますか
今回の「混沌」のメインの要素としては、和太鼓に西洋のドラムを取り入れた内容になっています。そこが、今までにない、鼓童としては一番新しい試みなのではないかと思ってます。
「混沌」の稽古が始まる前に玉三郎さんがお話してくださったことがあり、本当は混沌ではなく、調和を表現したいと仰っていました。ただ、調和するということは、まず混沌としている中で初めて調和が生まれてくる、生まれうるものだということをお話いただきました。
●舞台づくりにどのように関わっていますか
具体的にはフレーズをいくつか提供せていただきました。今まではプレイヤーが曲を作って持ち寄り、玉三郎さんに提案して、そのできた点と点を線でつないでいくという作業をしてきましたが、今回は、初めの新曲のアイデア出しというのは全くありませんでした。本当にゼロの状態でスタートして、玉三郎さんがそこで思いつかれたことを僕たちにお話してくださり、そこから初めて曲にして、フレーズが生まれ、それを広げて一幕と二幕を構成するという創り方をしています。それが、予想以上に難しいですね。いつもは時間をかけて作ったものを玉三郎さんにお見せするのですが、極端な話、「じゃあ午後までにここの部分を作ってきて」ということが多々あり、どれだけ日頃から新しいものを追求し続けていて、自分の中にどれだけバリエーションがあるのか、ということを試されて、すごく勉強になった期間でした。
内田依利
●今回の作品で色んなチャレンジがある中で、自分の中で克服すべき課題は
今回は本当にゼロからその場でどんどんどんどん、リズムを作っていくということで、なかなかすぐ対応できない自分もいるので、もっともっと常に新しいものを勉強していかないといけないんだなということを実感しています。
●稽古の雰囲気はどうですか
雰囲気はとても明るいです。今回はスムーズに進んでいる感触があります。玉三郎さんの方からアイデアをいただいて、何人か中心になってリズムを出したり、「適当に遊んでみて」みたいなこともありますね。「タイヤを適当に叩いて」と言われて今取り組んでいるのですが、後から映像で観ると意外に面白くて。その場で適当に叩いたものが、そのまま曲になっている部分もあります。
●いつもと違う手法はタイヤの他にありますか
ドラムがまず一番大きいと思います。西洋のドラムと太鼓を単純に一緒に演奏するだけでなく、どの音とどの音が馴染んで違和感なく混ざって行けるか。一つのアイデアをその場でどんどん引き延ばして作って行くので、いつも以上に先入観を持たずに、目の前のものに対応して行くのに必死です。
船橋裕一郎
●「混沌」というテーマに、どういうイメージを持っていますか
読んで字の如く、訳の分からないような世界であったりとか、英語で言うカオス、そういう整然としていないようなイメージがあるんですけど、街を歩いていても、混沌とした場所とかっていうのはハラハラしたりドキドキしたりしますよね。具体的には都会の中の、ちょっと一本脇道に入ったような所とか。一歩踏み込んじゃいけない世界を味わえるドキドキ感が結構好きなので、そういったものをイメージしています。
●玉三郎さんの演出の進め方はいかがですか
今は創作初期段階なのでタイトル通り混沌としていますが、その中からちょっと美しい場面であったり整然とする場面が出てきたりしています。今までは曲やモチーフが多かったものが、今回は一つの音から輪のように広がっていくような創り方が多い印象です。一つの音、一つの閃きから世界がどんどん広がっていって、そこを繋ぎ合わせていっている段階という感じですね。自分たちも今、どこに向かうのかまだまだ分からない所もありますが、それがとても新鮮で楽しいですね。
そして新しい楽器にもチャレンジしています。中国の揚琴という、叩いて奏でる琴です。叩きながらもメロディーが出てくる非常に綺麗な音のする楽器なので、「混沌」としている空気の中からそういう綺麗な音色が出せるように、頑張って稽古していきたいと思います。
撮影:岡本隆史
新作「混沌」稽古/住吉佑太
新作「混沌」稽古
最初に玉三郎さんから、この「混沌」(こんとん)というタイトルについてのお話がありました。
「混沌」というタイトルではあるが、本当にこの舞台で感じてもらいたいのは「調和」であるということ。最初から調和というタイトルにしてしまうと、どこが調和しているのか分からない。混沌としている部分があってこそ、初めて調和というものが生まれ得る。ある種、日本人の謙遜のような表現ですね。と冗談を交えながら話してくださいました。
今回は和太鼓だけでなく、西洋のドラムスを取り入れた舞台です。
元ザ・ブルーハーツの梶原徹也さんによるドラム稽古の様子
最初は困惑するところもありましたが、稽古を重ねるうちに、「たたく」という行為について、よく考えるようになりました。
人間の根本に流れる血の部分。「たたく」行為は、全人類共通の感覚なんだと、改めて感じています。「何を」たたくかは問題じゃない。根の部分が同じであることを忘れずに作品を作り、今まで和太鼓で一色だった枝葉に花や実が生まれてくれば、より新しい世界に進めると確信しています。
12月まであと半年ちょっと。まだ稽古は始まったばかりですが、自分たちも何が生まれてくるかワクワクしながら、稽古は続きます。