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舞台レビュー

「鼓童ワン・アース・ツアー2016〜螺旋」舞台レビュー


鼓童ワン・アース・ツアー2016〜螺旋
舞台レビュー

コピーライター:ND

Photo: Takashi Okamoto
『神秘』(13年)『永遠』(14年)『混沌』(15年)と、ここ3年のワン・アース・ツアーは”太鼓芸能集団 鼓童”の象徴である大太鼓を敢えて使わず、全ナンバーを新曲にして”新生鼓童”に生まれ変わる努力を重ねている印象が強かった。今回の『螺旋』では、まず玉三郎が関わるようになってからのレパートリー(09~13年初演)を並べて、その行程を振り返る。

Photo: Takashi Okamoto

出演者全員が揃って肩から担いだ桶胴太鼓を軽やかに響かせる『炯炯』(13年)に始まり、『Phobos』(09年)、『ミュート』(13年)、『草分け』(13年)と、桶胴太鼓の魅力を多角的に伝えるヴァリエーションが続く。

Photo: Takashi Okamoto

衣裳は白(後半は黒)のタンクトップに七分丈のレギンス。繊細で無国籍、洗練された現在の鼓童の音色を表現するためには、鉢巻きや半纏よりも相応しいコスチュームと言えるだろう。それは裸に締込(六尺褌)が定番だった『大太鼓』においても同様だ。

Photo: Takashi Okamoto

続いて登場したのは、ここ数年玉三郎演出作品では距離を置いていた大太鼓で、タイトルも前身の鬼太鼓座時代の75年に初演以来、鼓童の代表的な演目になっている楽曲と同じ。が、中身は完全に刷新された16年ヴァージョンで、屋台も提灯もなければ、笛や鳴り物も伴わない。代わって、ティンパニとグランカッサという西洋楽器の大太鼓が両脇を固め、森羅万象を想起させるような、深く、強く、ドラマティックな音色を、観客の臓腑にしみ渡らせる。

Photo: Takashi Okamoto

続く『モノクローム』(77年)も初期の代表作だけれど、これは現代音楽の作曲家石井眞木が、高音で乾いた音色の締太鼓の特性を解析し、構築した名曲。和太鼓の素朴さや荒々しさと対極にあるという点では、現在の新生鼓童の方向性にすんなり馴染むものだ。

Photo: Takashi Okamoto

そして今回は休憩を挟んで、同じ七台の締太鼓による『Color』(09年)が演奏される。撥を置き、太鼓の皮に爪を立てたり、こすったり、鈴の塊を投げつけたり、お互い顔を見合わせて唸ったり、ため息をついたり……。自由でコミカルなこの曲が、緊迫感漂う『モノクローム』のパロディであることが明快になる構成になっている。

Photo: Takashi Okamoto

旋回する女性パフォーマーのロングスカートと歌声が美しい『明けの明星』(12年)や、篠笛のメロディーが郷愁を誘う『夕闇』(13年)、数種類の撥を使い分け桶胴太鼓の音の表情をシャープかつ豊かに表現する新曲『綾織』を経て、最後にいよいよ表題曲の『螺旋』。

Photo: Takashi Okamoto

平胴、長胴、桶胴、ティンパニなど、大きさもルーツもさまざまに組み合わされた太鼓のセットが、要のソリストを囲むように配置され、八人の奏者による複雑かつ緻密、変化に富んだ打法が展開される。作曲には、今年舞台デビューした新人、若手、中心メンバーと、キャリア的に三世代にわたる演者が関わっており、文字通り螺旋を描くように順に演奏されるフレーズの中には、『屋台囃子』(73年)、『三宅』(82年)、『巴』(03年)といった、鼓童の各時代を象徴する楽曲が散りばめられているとのこと。

Photo: Takashi Okamoto

フレッシュな息吹を絶やさず育てる姿勢を改めて印象づけるとともに、過去を凌駕する解釈と表現によって35年間の歴史をしっかと受け止め、未来へ進む方向性を明確に呈示していた。「太鼓芸能を芸術に高める」と宣言して始まった玉三郎による新生鼓童の理想が、見事に具現化した瞬間に立ち会えた気分だ。

Photo: Takashi Okamoto

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公演紹介
http://www.kodo.or.jp/news/20160900oet_ja.html

全国ツアースケジュール
http://www.kodo.or.jp/oet/index_ja.html#schedule26a

12月14日(水)福岡公演
http://www.kodo.or.jp/oet/20161214a_ja.html

12月17日、18日 大阪公演
http://www.kodo.or.jp/oet/20161217-18a_ja.html

12月21日~25日 東京・文京公演
http://www.kodo.or.jp/oet/20161221-25a_ja.html


鼓童ワン・アース・ツアー「混沌」に寄せて/本間教子


鼓童ワン・アース・ツアー「混沌」

文●本間教子 写真●岡本隆史

かつて東京でホールやライブハウスをめぐる日々を過ごした時期があった。ステージで炸裂するのは、まぎれもないロック。ギター、ベース、そしてドラム。3つの楽器とボーカルで構成する何組ものバンドと向き合った。バンドはドラマーとベーシストによるリズム隊が基本、ドラムがブレると正確なリズムを刻めない。リズムをとらえようと目を閉じると、浮かんでくるのは何故か「鬼太鼓」だった。佐渡の郷土芸能との不思議な既視感。

鼓童「混沌」の舞台にその答えを見つけた。

Photo: Takashi Okamoto

ステージには3組のドラムセット。三者三様のドラミングに鳥肌が立つ。渾身の一打が心に響く、打つという行為の普遍性。地球に誕生した音に変わりがないということ。それは今回登場したフルートやティンパニ、揚琴などほかの楽器にも言えることだった。その人でなければ出せない音、この瞬間にしか出会えない音。それが外部の演奏家とのコラボではなく、鼓童のプレイヤーによって届けられたことの意味。客席も共鳴の拍手で応えた。

Photo: Takashi Okamoto

見えない壁をひらりと超えて、「音」を楽しませた。打楽器を基本として、弦楽器あり、管楽器あり、ボーカルあり、手作り楽器あり、なんでもあり!

鼓童という究極の「バンド」が魅せてくれる可能性にわくわくする。

Photo: Takashi Okamoto

本間教子氏/鼓童の前身「佐渡の國鬼太鼓座」創設当時より長年にわたり鼓童をご指導くださった本間雅彦先生のお嬢様。11/23 佐渡公演にご来場。

 

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「混沌」作品紹介

スケジュール(2015年11月佐渡初演〜12月)

「混沌」ブログ

全国11都市で公演!

【大阪】12月5日(土)、12月6日(日)大阪府大阪市 NHK大阪ホール

【東京】12月19日(土)〜12月23日(水・祝)東京都文京区 文京シビックホール


『タイヤ、揚琴、ドラム、そして太鼓』2015 真夏の「混沌」稽古場レポート/伊達なつめ


タイヤ、揚琴、ドラム、そして太鼓
2015 真夏の「混沌」稽古場レポート

文●伊達なつめ 写真●岡本隆史

Photo: Takashi Okamoto

「まだ、まとまらないんですけど」
「いいの、〝混沌〟だから」

「ちょっと、ごちゃごちゃしちゃって」
「まさに〝混沌〟じゃないか」

2015年8月上旬に訪ねた佐渡の稽古場では、何かにつけて今回のワン・アース・ツアーの新作タイトルが連呼されて、場をなごませていた。

Photo: Takashi Okamoto

〝混沌〟は、辞書には『ものごとが整っていないさま』とあるけれど、本来、世の中ってそういうものでしょう。システム化されて国だの政治だのになってはいても、人間は、整理整頓などされていませんからね。これまで『伝説』では各時代の作曲家の作品を並べ、『神秘』で闇というものに向き合い、『永遠』では曖昧な雰囲気が繰り返されるものを表現してきたので、今回は〝グチャグチャで楽しめる〟感じでいこうと思います。とにかく、いろいろな楽器が出てくることにしたいんです。ドラムも、タイヤも、揚琴も」

と、玉三郎芸術監督。そんなわけで今回は、つねにも増してユニークな楽器が登場している。まず、目を引くのは、冒頭にコロコロと転がってきて、その後、楽器と化すタイヤ。これは小田洋介さんのアイデアで取り入れられた。

Photo: Takashi Okamoto

「アメリカ・ツアーに演出補佐で参加していた際にワークショップをやったんですが、そこで、アメリカの人たちがタイヤを叩いているのを見たんです。あくまでも、高価で太鼓が買えないための代用品なんですが、タイヤを楽器として使ったら喜ばれるんじゃないかと、フッと玉三郎さんのことが頭に浮かびまして。提案したら『音が聞きたい』ということだったので、いくつか曲を作ってみたら、けっこう音が出たんです。皮の代わりに張ってあるのはビニールテープなので、耐久性を心配したんですけど、フルパワーで2時間叩いても、大丈夫だったんですよ。大きなバット撥で叩くと、意外といい音が出ます

これを実際に舞台で叩くのは、主に三人の女性たち。そのうちのひとり内田依利さんは、カナダに留学していた学生時代にも、タイヤを楽器として叩いた経験があるそう。

「わりと、日本より海外の方が多いかもしれないですね。タイヤとか、水道のパイプみたいなものにテープや皮を貼って、人前で演奏していました。そうやってふつうにやってはいましたけど、タイヤは、打ってもぜんぜん撥が跳ね返ってこないので、意外ときついんですよ。振動がまったくなくて、ニュアンスが出ないので、とにかくウワーッと力を込めて叩きます。ビート感はわりと出るので、細かいことはあまり考えずに、どんどんとノリをよくしながら、ただただ振り回す感じです(笑)」

女性たち3人は、第一幕は太鼓のコミュニティーにドラムやタイヤという異物を持ち込み混沌をもたらす、アウトサイダー的存在として登場。 バット撥を力任せに振り下ろす姿は、かなり迫力があってコワい。

Photo: Takashi Okamoto

荒っぽいタイヤに比べて、より繊細さが強調されるのが、中国の打弦楽器、揚琴(ようきん)。船橋裕一郎さんが、メロディアスな音色に挑戦している。

Photo: Takashi Okamoto「こういう音を入れてみたいという話は、最初から聞いていたんですけど、まさか自分がやることになるとは。たまたま、ほかのメンバーがほぼ全員出ているシーンを眺めていたら、玉三郎さんと目が合ってしまったんです(笑)。先日、揚琴の演奏家の先生に来ていただいたんですが、あまりにもすご過ぎて、汗が出ました。一弦叩くと、ひとつの音に三〜四本のワイヤーが触れて和音になるんですが、メロディー楽器をあまりしていなかったので、間違いなく決まった音階のある細い弦を叩くのが難しいです。叩くといっても打ち付けるのではなく、一瞬のタッチでないと鳴らないし。とはいえ、同じ打楽器の仲間ではありますから、共通点はあるはず。いちばんいいタッチのしかたを、見つけられればと思います

さて、混沌をもたらす3つ目の楽器は、ドラムだ。スネア(スタンドで腰の高さに設置したドラム)やタムタム(ドラムセットでは上部に設置される2つ並んだドラム)といった単体で使用されるほか、今回はドラムセットによる三人のソロ演奏まで披露される。そのうちのひとり坂本雅幸さんは、かつてプロのドラマーを目指した経験者。

Photo: Takashi Okamoto「学生のころずっとやっていたので、太鼓を始めたころは、『打ち方がドラムっぽい』と散々言われていました。ドラムは手首を使うんですが、和太鼓は肩と全身を使って打つものなので、同じ太鼓でもぜんぜん違うんですよ。昔から感じていたことですが、ドラムと和太鼓を合わせるのは、すごく難しいものなんです。まず、響きのタイミングが違う。ドラムはヒットした瞬間の音がすべてですけど、和太鼓は打った後の響きの方が、大きくなります。それから音色自体も、ドラムはガシャガシャしているように聞こえますが、実はかなり豊かで、洗練されている。これと比べると和太鼓は、だいぶ原始的なんです。
今までもいろいろな楽器を使ってきましたけど、ドラムは、和太鼓に対してもっとも違和感があって、手をつけにくかったんです。今回は、それに敢えて挑戦する、ということになるので、今は和太鼓の打ち方を変えて、合わせていこうとしています。いつものようにドスンと打ち込むと、深く響き過ぎてしまうので、表面の音を出そうと、探っている最中です。和太鼓とドラムのセッションはよくありますけど、想像できるようなものになってしまうと意味がないので、ぶっ飛ぶようなものにしたいんですよね。僕はドラマーとしては技術屋の方だったんですけど、小手先のドラマーって、あまりおもしろくないじゃないですか。すごいドラマーというのは、技術ではない、もっと別の次元のものを持っています。鼓童には〝別のもの〟だけはあるので(笑)、それが出せるようにならないと

住吉佑太さんは、作曲で大忙しのなか、ドラムにも挑戦して、坂本さんの言う「別のもの」ぶりを遺憾なく発揮している。

Photo: Takashi Okamoto「玉三郎さんは、『ドラムを力いっぱいぶっ叩け。クレイジーになりなさい』とおっしゃるんです。これは僕の認識ですけど、大太鼓を叩く場合は、その行為は音楽的な部分を超えて、精神的な部分が重要になってくるんですよ。手先でできるものではないので、体力をめっちゃ使って打ち込んで、しんど過ぎて何も考えられなくなってきて、若干トランス気味になるくらい。そんな状態であるために、叩く際にウォーッっという底力が自然と沸いてきて、太鼓に打ち付ける感じなんですけど、『それと同じことを、ドラムでやってみなさい』と言われている気がするんです。太鼓とドラムの、外側ではなく、内側にある共通項を見つける作業なんじゃないかと。だから、今はとにかく思いっきり叩いています。立ち上がって叩くは、シンバルのネジは飛ぶは、もうすごいです(笑)

楽器としてのドラムと和太鼓の違いも、強く感じます。そもそもドラムセットは、人数が足りないからひとりで叩けるようにという、利便性でつくったものじゃないですか。すごく合理的なんですよね。それに引き替え和太鼓は、なんでこんな打ち方しなきゃいけないんだというほど、不合理で理不尽。屋台囃子なんて、腹筋しながら(無理な体勢で)打つわけですからね。この相反する二つをどう合わせていくかは、ただいま模索中です。ドラムの基礎は習ったんですが、ぜんぜんできてなくて、マイナスからのスタートですけど、『太鼓打ちのドラムを』と玉三郎さんに言われているので、なんとか新しい音を見つけたいと思っています」

Photo: Takashi Okamoto

ドラムのソロを披露する小田さん、坂本さん、住吉さんの三人は、三年前から元ザ・ブルーハーツのパワフルなドラマー、梶原徹也さんの指導を受けてきた。『混沌』における三人三様のまったく異なるソロは、タイトルにふさわしい見どころ・聴きどころのひとつとなっているが、そこには時間をかけて彼らと向き合ってきた、梶原さんの尽力がある。

Photo: Takashi Okamoto

「坂本雅幸くんは、プロのドラマー志望だっただけあって、最初からわりと何でもできたので、速いパンクなども含めたいわゆるロック・ドラムを。小田洋介さんは、僕と同じ猪突猛進型なので、『ブルーハーツ仕込みの伝家の宝刀を君に伝えよう!』と、まっすぐなエイトビートを伝授しました。住吉佑太くんは、エイトビートがうまくいかない代わりに、ワールドミュージック系のなまった感じのビートを出すのが得意なので、足を省略して手のニュアンスで攻めるようにしたら、いきなり伸び始めました。ふつうのロック・ドラムとはぜんぜん違う彼の持ち味が、そのままドラムに反映されています。彼らはみな超一流の打楽器奏者ですから、爆発していくシーンで、自分のエネルギーを楽器に託して表現する術を、知っているんですよね。先日の練習でそれが確認できたので、もう何も心配する必要はないと思っています。バッチリです!」

こうした新たな楽器へのチャレンジが続くなかにあって、中込健太さんは、ワン・アース・ツアーとしては久しぶりとなる大太鼓(※)に向き合っている。
※平桶大太鼓による「大太鼓」スタイルの演奏

Photo: Takashi Okamoto「これまで鼓童がやってきた、屋台の上に載せて打つ大太鼓のスタイルでは、ある形式ができあがっていて、先輩たちが創り上げたものに自分が乗っかっていき、そこから外れないようにしつつ、自分ならではの個性を出す、ということが求められていたんです。今回は、そうした今までの鼓童の大太鼓とは違う役割で、単にひとつの楽器として存在すればいいのかな、と思っています。でも、大太鼓には、どうしても楽器ではない存在感を感じてしまうんですよ。〝樹齢何百年という木に、生きていた牛の皮を張ったすごいもの〟に対峙するためには、それなりに自分の気持ちをととのえて向かわなければいけないので、音楽をやっているという意識が持てないんです。音楽として構成されているものの中に、そういう気分を持ち込んだら、どうなるのか。もしくは何か違うものが出てくるのか。そこがとても楽しみですね」

未知の楽器へのチャレンジと、西洋楽器ドラムの鼓童的解釈、そして、築かれた伝統を問い直す姿勢。どこまでもアグレッシブなアプローチが、〝混沌〟を生み出そうとしている。

Photo: Takashi Okamoto


【佐渡へ初演を観にいこう!】
23日、新作「混沌」佐渡初演!
http://www.kodo.or.jp/oet/20151123a_ja.html
11/22 17時まで受付:アミューズメント佐渡 Tel. 0259-52-2001、蔦谷書店佐渡佐和田店(窓口へ)
(鼓童チケットサービスでの受付は終了しました)
<当日券>23日14時より劇場で販売

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伊達なつめ(だて・なつめ)
演劇ジャーナリスト 演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のパフォーミングアーツを追いかけ、女性誌『InRed』、『CREA』、新聞”The Japan Times” などへ寄稿。”The Japan Times” に英訳掲載された日本語のオリジナル原稿は http://natsumedate.at.webry.info/ で公開中。著書『歌舞伎にアクセス』(淡交社)ほか。


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