鼓童ブログ Kodo Blog

鼓童ワン・アース・ツアー 〜神秘/寄稿●玉重佐知子氏


暗闇に繰り広げられる『神秘』。
その奥や向こうに広がる世界。

2013年11月23日、いよいよ新作『神秘』が鼓童の拠点佐渡を皮切りに開幕する。新作発表に際し、玉三郎さんが寄せた挨拶文の中に、次の言葉があった。

「闇を作り出し、ロウソクの灯りの中で遭遇する物の美しさと、曖昧で不思議な感覚。神秘性の中には、恐ろしさ、滑稽さ、可愛さなど、いろいろな事柄が含まれています。昔から伝わっている蛇舞も、退治される蛇には驚く程の神聖さが備わっています。今回の舞台では闇の中からいろいろなものが現れます。鼓童ならではの太鼓の演奏に視覚的な要素も十分取り入れました。不思議な時空というのは、その場に居合わせなければ感じることが出来ません。神事や芸能も、先人の閃きを長い時間をかけて磨き上げて来たものです。」

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「神秘」では演劇的要素や芝居も新しく取り入れている。

 

そして、初演を前に、玉三郎さんは次のように語ってくださった。

「暗闇の中、見えるようで見えない、見ようと思えば一瞬見える。その隠れようとするところに、先を行きたい、未来を見たい、光を見たい気持ちがおこる。その揺れ動きが神秘です。登場する蛇舞も、蛇の扱いをどうやったらいいのか。蛇の動きの中に、『あっ。悪の象徴としての蛇なのに、こんなに美しいものなのかしら。ほんとうは精霊なのではないかしら。』受け取る側もいろいろな感じ方をする。そう思う幅の中に神秘がある。研ぎ澄まされた芸を真心を込めて演じたとき、芸能の神様というか、宇宙からの波が降りてくる。一人にかもしれないし、一夜限りかもしれない。それが劇場なんです。」

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新たな照明の小道具も製作。音だけでなく視覚的にも、不思議な空間を演出。

その言葉を聞きながら、2013年10月2日に行われた伊勢神宮の内宮の「遷御の儀(せんぎょのぎ)」の光景を思い出した。天照大御神をおまつりする内宮の、旧殿から新殿へのお引越しは、古式ゆかしい装束と作法で古代絵巻のようだといわれるが、その列は暗闇に包まれ、玉砂利を踏む音のみが遷御の進行を伝えた。風の流れが、温度が変わり、何か、懐かしい気がした。闇の中に気配としてのみ感じられる神秘そのものだった。21世紀における初めての式年遷宮が、1300年という長きにわたり、延々と続けられ、数多の人々の手を経て、現代を生きる私たちの手元へと届けられた。その年、『アマテラス』と『神秘』が上演されるという偶然に、神秘を感じるのは私だけだろうか。


玉重佐知子(たましげ・さちこ)氏 プロフィール

文化ジャーナリスト。早稲田大学卒。一九八八年渡英、ロンドンで西洋美術史、映画文化人類学を学んだ後、ロンドンを拠点にNHKやBBCなどのドキュメンタリー番組制作に関わる一方、美術、建築、デザイン、音楽、映画他文化一般について、アエラ、芸術新潮、BT(美術手帖)、ミセス、日経BP社の各誌、ソトコト、Japan Times、Blue Print他に執筆。英国や日本の文化政策や文化を起爆剤にした地域振興戦略を追っている。書籍「Creative City   アート戦略EU・日本のクリエイティブシティー」(国際交流基金/鹿島出版会)の一部を執筆。現在は木造伝統構法と森林文化研究のため京都に在住。

 

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