鼓童ブログ Kodo Blog

鼓童ワン・アース・ツアー 〜神秘/寄稿●玉重佐知子氏


web-P1410812  web-P1410898

左)神楽ヒーローになりきる保育園の園児達。
右)龍御前神社での夜神楽の様子。地元の方々や観光客で賑わう。

 

小林泰三さんは小学生の頃から神楽面職人・柿田勝郎氏の元に通い面づくりを学んだ神楽面職人だ。温泉津舞子連中のベテラン舞い手としても活躍しながら、各地で神楽の指導やワークショップも主催するなど、これからの石見神楽文化の伝承を担う若手ホープでもある。街を歩いていると「泰三さん!」とあちこちの子どもが大声で名前を呼び、手をふる。温泉津の温泉街の中央にある神社では、定期的に様々な神楽団の演目がかけられ、夕食後、孫の手を引いたおばあちゃんや、温泉に入ってほろ酔い気分のカップルなどが神楽を見にやってくる。保育園では、神楽のお囃子を鳴らすと、子どもたちが火がついたようにいっせいに踊り出す。この地では、アンパンマンも○○レンジャーも神楽のヒーローには叶わない。

龍御前神社の舞台で、鬼が客席まで飛び出してきたとき、おばあちゃんの脇にしがみついて泣く子どもの姿があった。子どもは五感で、体まるごとで神楽を楽しみ、怖がる。神楽はリアルなのだ。

島根県には、幼い頃から体に染み込んだ神楽が忘れられずUターンする若者が多いという。小林さんも一度は故郷を離れたUターン組。京都造形芸術大学の学生・職員として10年を京都で過ごし、地元に戻り、面造りの小林工房をスタートさせた。小林さんが同大学で石見神楽のワークショップを開いていたとき、同大学の学生として参加した草さん、上田さんと出逢ったことが鼓童との縁に繋がった。「風土の、土と風。土はその土地で育まれたもので、風は他所から吹いて来る新しい息吹。両者の間を行ったり来たりすることが大事かなと思います。いえば、ぼくにとって石見神楽は土着的な土、鼓童は世界や全国各地を巡る風のような存在です。両者が交流することで、刺激を受け、各々にとって新しい発見や変化がおこる。」

web-P1410582  web-IMG_3165

左)「小林工房」にて、小林さんの面づくり作業。沢山の神楽面が今にも動き出しそうに出番を待つ。
右)温泉津舞子連中の皆さんとの「大蛇」稽古の様子。

 

鼓童の温泉津における稽古最後の夜、温泉津舞子連中のメンバーたちへの御礼として、草さんと小松崎さんが打ち込んだ太鼓の音には「心からのありがとう」の響きがあった。翌日は雨の中、小林さん、草さん、小松崎さん、上田さんと、60年ぶりの遷宮で御本殿の大屋根が葺き替えられた出雲大社に詣でた後、皆で、八岐大蛇退治の舞台といわれる出雲のを見にいった。強風吹きすさぶ橋からは「ひゅーひゅー」と笛のような音が聞こえる。昔、斐伊川は暴れ川だったそうで、氾濫した折、大蛇の腹のように血の色になって流れたという。山麓一帯は砂鉄の産地でもあり、川床に砂鉄が流れ込んでいるせいか、川面が蛇の鱗のように見え、「大蛇だ」と、皆で叫んでいた。

アーカイブ

カテゴリー

Top