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藤本容子インタビュー by ジョニ・ウェルズ


「CDとコンサートのお知らせ」

3月にソロCD第二弾「やまず めぐるも ~よろこび悲しみ とけるままに~」をリリースした藤本容子。9月20日(土)と23日(火・祝)には、佐渡で「やまず めぐるも」と題した公演も行います。このCDにかける思いを、ジョニ・ウェルズ氏が藤本容子にインタビューを行い、英語ブログに掲載しました。このブログを和訳したものを元に、藤本容子がさらに言葉を加え、皆さんにお届けいたします。
(和訳・編集:鼓童広報部)

藤本容子インタビュー by ジョニ・ウェルズ

Yoko Fujimoto talks to Johnny Wales

はじめ、このCDは、とても個人的な実母への思いから、制作のきっかけが生まれました。そして、内容を考える過程で、その初めの思いに加えて、「生命のご縁」への思いが、深く混じり合って行きました。

遠い昔から今日まで、人間の生命は、脈々と続く一筋の道のように思います。その道筋は上昇しつつ螺旋を描いて、様々なところで、もう終わってしまったと思っていたご縁が、また別の形で復活したり、結びついたご縁が、また新たな結びつきを産んだりしながら、より豊かに光と影を織り込んで行きます。

終わりの無いサイクルの中で、生まれ変わり続ける人間の生命とご縁は、まさに神秘の曼荼羅。「その曼荼羅の光芒の一辺でも、見て聴くことのできる形にできたら」という思いが、このCDになりました。

タイトル「やまず めぐるも」は、その思いをもとに、収録曲「風車」の歌詞から選んだものです。

このCDの芯になった、「マルティーナの子守唄」のことを、お話ししましょう。史実をもとにした、イタリア映画「やがて来る者へ」(原題:L’umo che verra)のエンディング・テーマです。平穏な山里が、一変して殺戮の現場となり、8歳の少女マルティーナと生まれたばかりの弟が生き残ります。彼女は、一年前に生まれたばかりの弟が自分の腕の中で無くなり、そのショックで口がきけなくなっています。しかし、家族を殺され、この世にただ二人残されて、弟を腕に抱いた彼女の「この子は死なせない!」という声なき魂の叫びは、これまでの守られる側から守る側へ、彼女を一夜にして変身させるのです。

あらゆる努力と智慧に尽したすえに、日だまりの中、ぼう然と弟を抱きながら(たぶん無意識に)歌うシーンで映画は終わります。

幼く、無力の極みにあるマルティーナが、懸命に健気に、自分のことを横に置いて弟の生命を守ろうとしている姿に、私は、人類の生命の歴史も見たような気がしました。弱く無力な人々による連綿たる多くの貢献があったからこそ、今、人類はこの地上に生き延びているのではないかと思いました。これは悲劇であり、同時に、か弱いけれども偉大な希望の物語だと思いました。

何度も繰り返してうたを聴き、それが身体に入ったとき、彼女の目にみえるものを言葉に写して、詩を作り、歌い始めました。

永遠、励まし、無邪気、愛、あこがれ、歓喜、友情… 7曲が納められたこのCDから、皆さんに、人間の心の万華鏡のようなきらめきを感じていただけたら幸せです。

CDを作る直前で、久しぶりに会った友人から、私の引きがちな性格に対して、とても厳しい励ましの言葉をもらったことがあります。自分の弱い現実に向かい合った時でした。そのときの気づきと「心機一転」が、このCDの内容に大きく結びつきました。

感謝しつつ、抽象画家であるその友人の絵を、ぜひCDジャケットに使わせていただこうと、お宅を訪ねたときのこと。沢山の素晴らしい絵の魅力に引き込まれて見入っていると、「CDのタイトルは?」と聞かれました。「『やまず めぐるも』ってしようかなあと思っているんだけど」と言うと、「ちょっと待ってて!!」と別の部屋に入ってゆき、小さなガラス絵を持ってきました。冬の午後の柔らかい光を通しながら、その絵の、なんという美しさだったことでしょう!

彼女の「これは、私の一番好きな作品なの。タイトルは『めぐる いのち』!」その一言で決まり! でした。
「この世に、偶然は無い」って本当だなあ。

CDの音楽は、木村俊介さんにお願いしました。鼓童として「アマテラス」の音楽や、千絵子の「ゆきあい」の舞台音楽、また、EC最終日夜の「宵のゆんづる」も俊介さんの作曲です。私も、ソロコンサートでお世話になったり、その他同じステージを踏むチャンスをいただいてきています。今回は、木村さんが笛などの演奏を始め、音楽監修を務めてくださり、その他、津軽三味線、和太鼓、13弦と17弦の箏、ワールドミュージックのパーカッション、そしてヴァイオリンの演奏で、私のうたを生かしてくださいました。素敵なCDができました。木村さん、演奏陣のみなさんに感謝です!

このCDは、サンニャ・プロジェクトと音大工の共同制作です。今後、容子はサンニャ・プロジェクトの名で、ソロの活動をして行きます。この名前はサンスクリット語でスーニャ。チベットの言葉で「空(くう)」を意味します。名前との出会いについては、いつかまたの機会にお話しいたしましょう。

Yoko with her new album "Yamazu Megurumo"

藤本容子とCD「やまず めぐるも〜よろこび悲しみとけるままに〜」

<「やまず めぐるも」曲目紹介>

1)風車(明治時代の幼稚園唱歌)

風や川の流れを受けて、めぐるめぐる、風車、水車。けれど、風や水は、モノをめぐらせるだけでなく、自ら自身もまた、止むことなくめぐっている。子供のうたでありながら、永遠の自然と生命を思わされる、深いメッセージを感じるうたです。日本に初めて学校制度が施行されたとき、日本の音楽は無視され、西洋音楽が導入されました。そんな中、雅楽省の人に作曲された、当時としては希有な唱歌です。うたの美しさだけでなく、歴史的な意味も知っていただきたく、VoiceCircleワークショップで紹介してきています。

 

2)オロロ ピンネ(アイヌ歌謡)

アイヌの言葉で、森に住む生き物を歌ったうた。曲中フリーボイス(アドリブ)の部分もあります。心身共に落ち込んでいたある日、このうたを歌っている時に突然、自分が数えきれないほどの生命の地層に支えられて生きていることに気づきました。それがきっかけで、生きること,歌うことに戻ってくることができました。今は、このうたを歌うことで、励ます側にまわりたいと思っています。

 

3)花のわらべ唄(詩:本間正次/曲:藤本容子)

佐渡の農家の本間正次さんが作られた詩に、私が曲をつけました。正次さんは、小さい頃お姉さんと一緒によく遊んだそうです。70年前の子供達が、ままごとをしている姿が、映し出されてくるようです。CDでは、これまでうたのご縁をいただいてきた、栃木県壬生寺保育園の園児達が元気な歌声で参加してくれています。私も、声で遊んじゃいました。

 

4)マルティーナの子守唄(イタリア,ボローニャ地方の子守唄/日本語詩:藤本容子)

インタビュー前半でご紹介しています。

 

5)星とたんぽぽ(詩:金子みすゞ/曲:藤本容子)

若くして亡くなった詩人の、代表的な作品の一つです。20年程前に初めて読んだとき、とても感動して歌いたくなり、曲をつくりました。
見えぬけれども あるんだよ。
見えぬものでも あるんだよ。
という言葉が、とても印象的で、あたたかく心に迫ってきます。

 

6)実り唄(台湾アミ族の収穫の祭りの唄/日本語詩:藤本容子)

シンプルで、歌う程にうきうきしてくる、無邪気な喜びのうたです。日本の民謡「はんや節」の掛け声・囃子声に通じる言葉が出て来て、おー、ルーツは台湾まで遡れるかあ!!と、いつも感動してしまうのです。あちこちで保育園児たちが、喜んで踊っていると聞いています。うれしいなあ。

 

7)ヒネマトブ(ユダヤ聖歌/日本語詩:藤本容子)

「今日は、なんて良い日だ。ようこそ! 良く来てくれた。さあ、ここに座って,一緒に歌おう」
「ああ、なんて嬉しいことだ、あなたに会えるなんて。よろこびも悲しみも溶かして、さあ一緒にうたおう」
ユダヤの聖歌ではあるけれども、宗教を超えて、人間が本来持っている素晴らしい友情の心、抱擁の心を歌っています。私たちに、その心を思い出させてくれるうた。VoiceCircleワークショップでは、いつもこのうたを最後に歌って終わります。一期一会、一緒に時を過ごせた幸せを、ありがとう。

 

Yamazu Megurumo

藤本容子 ソロCD第二弾「やまず めぐるも〜よろこび悲しみとけるままに〜」は、鼓童オンラインストアにてお求めいただけます。やまずめぐる、生命と出会いの神秘に思いを馳せて、これまで大切にして来た曲の中から特選した7曲をぜひCDでお楽しみください。

鼓童オンラインストア
http://www.kodo.or.jp/store/70_1401.html

 

藤本容子コンサート「やまず めぐるも」
9月20日(土)新潟県佐渡市 吾妻夕映亭海容亭
9月23日(火)新潟県佐渡市 Cafe一葉
http://www.kodo.or.jp/news/20140920yoko_ja.html

11月7日(金)新潟県燕市 大山治郎コレクション美術館
http://www.kodo.or.jp/news/20141107yoko_ja.html

※ジョニ・ウェルズ氏によるインタビュのー記事は、英語ブログでご覧頂けます。
http://kodo.or.jp/blog_en/articles-interviews/20140320_272.html


 ジョニ・ウェルズ(Johnny Wales)

1953年、カナダ・トロント生まれ。トロント大学卒業(学士号取得)。1975年に初めて日本を旅行、その際、鼓童の前身である「佐渡の國 鬼太鼓座」に出会う。また文弥人形の師匠である浜田守太郎氏にも出会う。1976年カナダに帰国、鬼太鼓座の初めてのカナダツアーの制作を担当。1977~78年、佐渡に住み文弥人形を学ぶ。それ以来、鬼太鼓座、そして鼓童の仕事にたびたび関わりながら、文弥人形の指導、通訳、翻訳、また舞台照明の仕事に従事。その後、文弥人形の指導、活動をしながら木彫師として鼓童の舞台で使用する面を作成。1987年には The Kodo Beat(英文ニュースレター、2011年春に終刊)の最初の編集者として活躍。写真家、イラストレーター、そして Kodo eNews(英文電子ニュースレター、2013年12月に終刊)やブログ作成にも関わる。現在、ジョニ・ウェルズはフリーランス・イラストレータ、アニメーター、木彫師、人形遣い、そして作家としての肩書を持つ。カナダでは7冊の児童向け作品の挿絵を描き、その中の一冊『Gruntle Piggle Takes Off』(Viking Childrens Books出版)において、1996年、カナダの文学作品賞であるThe Governor General’s Awardの候補となる。1995年より、読売新聞にて、東京についてのイラストによるコラムを連載。現在、佐渡にて妻・智恵子と秋田犬のKyla (カイラ)とともに暮らす。

 Website: www.johnny-wales.com (英語・日本語)

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