鼓童ブログ Kodo Blog

カオスの中で/伊達なつめ


「鼓童ワン・アース・ツアー〜混沌」稽古場より

国内外で活躍されている演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんに8月、鼓童村での「混沌」稽古をご覧いただきました。

カオスの中で

文●伊達なつめ 写真●岡本隆史

Photo: Takashi Okamoto

タイヤがコロコロと舞台を横切る。太い竹の筒(トンガトンというインドネシアの楽器)が、床に置いたコンクリートブロックに打ちつけられる。ドラムのソロが炸裂する。昆劇で使われる楊琴が哀切なメロディーを奏でる。カップ麺の器にバネを付けた手作り楽器が、不思議な音を発する……。うむ、確かにこれは「混沌」だ。

Photo: Takashi Okamoto

8月上旬に訪ねた「ワン・アース・ツアー」の稽古場には、いつも以上に多種多様な楽器、あるいは「叩くと音がするモノ」が溢れていた。

混沌稽古_2852-ss

タイヤは本来の機能である「転がる」ことを終えて平らに置かれると、女性パフォーマーたち(内田依利・安藤明子・蓑輪真弥)に力の限りメッタ打ちにされて、低く硬質なゴムの音を響かせる。この女子三人は、見たところちょっとやんちゃ系で、タイヤやドラムといった、邦楽器世界にとっては「異物」となるものを持ち込む役割だ。

スネア(スタンドで腰の高さに設置したドラム)やタムタム(ドラムセットでは上部に設置される2つ並んだドラム)といったドラム類が、長胴や平胴太鼓に互して存在感を主張するだけでなく、完全なドラムセットによる演奏も行われる。特に後半、小田洋介、坂本雅幸、住吉佑太の三人がみせるドラム・ソロは圧巻だ。

Photo: Takashi Okamoto

これは約三年間にわたって彼らにドラム演奏の指導をしてきた元ブルーハーツのドラマー梶原徹也さんが、各自のキャラクターに合わせて構成したオリジナルで、三人三様の、まったく異なる個性がしのぎを削り、鳥肌が立つほどの興奮を呼び起こす。

Photo: Takashi Okamoto

それは理屈抜きに突き動かされるパワーを浴びる体験であると同時に、鼓童の技術とセンスを駆使してドラムに対峙すると、どんな音楽と空間が醸成されるのか。そんな飽くなき好奇心と創造性に富んだ実験と挑戦の場に遭遇している、という知的興奮でもある気がする。鼓童におけるドラムは、和太鼓と西洋楽器のセッションのためにあるわけではないのだ。

Photo: Takashi Okamoto

さまざまな音が行き交う『混沌』だけれど、そういえば、ワン・アース・ツアーの作品としては久々に、大太鼓(※)が登場している。といっても、そこにすべてが収斂される絶対的エースとしてではなく、さまざまな成り立ちの音が錯綜するカオスの中のひとつとして、輝きを放つというあり方だ。こういうところにも、表現としての成熟が感じられる。

※平桶大太鼓による「大太鼓」スタイルの演奏

Photo: Takashi Okamoto

「この短期間で、よくここまで出来ました。これで十一月の稽古に安心して来られます」

通し稽古を終えた演出家は、手応えを十分に感じた様子。こちら見学者としても、これまでの最高傑作を期待してしまうひとときだった。

Photo: Takashi Okamoto

伊達なつめ(だて・なつめ)
演劇ジャーナリスト 演劇、ダンス、ミュージカルなど、国内外のパフォーミングアーツを追いかけ、女性誌『InRed』、『CREA』、新聞”The Japan Times” などへ寄稿。”The Japan Times” に英訳掲載された日本語のオリジナル原稿は http://natsumedate.at.webry.info/ で公開中。著書『歌舞伎にアクセス』(淡交社)ほか。

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「混沌」作品紹介

スケジュール(2015年11月佐渡初演〜12月)

「混沌」稽古場より(月刊鼓童より)

新作「混沌」稽古/住吉佑太

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