プレイヤーの目

2008年4月より10月まで掲載されたインタビュー「プレイヤーの目」です。

第七回「吉井盛悟 × 『たまゆらのみち』」

今年のヨーロッパツアーがデビューとなった盛悟さんの新曲、『たまゆらのみち』。この演目はどのようなインスピレーションを受けて作った曲なのですか?

少し真面目な話になりますが…。鎌倉に行くと、八幡宮の近くに源頼朝の墓があります。その墓は、とてもかつての征夷大将軍のものとは思えないほどひっそりとしていて、もの寂しい感じがします。それを見た時、皮肉にもふと平家物語の「祇園精舎」、『おごれるものも 久しからず ただ春の夜の夢のごとし…』を呟いていた自分がいて…。
人とは虚しく悲しい生き物かもしれませんが、僕にはそれが美しく見えます。消えゆくまでのその僅かな時を儚くも輝くそのさまは草葉に宿る露、「たまゆら」のよう。そのような人の可憐な美しさをこの曲に込めました。

作詞はどのように行いましたか?

歌詞は唄を担当してくれている好江さん(砂畑好江)に作ってもらいました。僕が作ると、きっと説明的になるので…、というよりできないだけ…。

歌い方や表現方法について、歌い手に何かリクエストなどはしますか。

たまに「こう歌って欲しい」などと言ったりしますが基本的には全てお任せです。僕が表現したかったのは、人が生きることの儚さ、でもその中で精一杯、全身全霊で歩んで行くことの美しさ。実は好江さんにはこういったことはほとんど伝えていません。でも仕上がってきた歌詞を見せてもらい「ぁ!これ、いける!!」とビビってなにか感じるものがありました。

好江さんが作詞されたという歌詞、盛悟さんの印象を聞かせてください。

「遠い 遠い 果て」という言葉は何か届かない想い、「明かり さす」はその中にある一筋の希望を感じます。このように歌詞の一言一言が持つイメージを隠喩として用いて、心情を表現できる気がしました。また、歌詞の中には反対のイメージを感じさせるものがいくつか入っていて、「落ちゆく」と「うまれ」は悲しみと喜び、「遠く」と「明かり」は絶望と希望のようなものを感じます。
それがまるで人の歩む道を比喩しているようでグッときました。

ヨーロッパ公演では太鼓、笛、胡弓という編成でしたが国内公演では唄、箏、笛を用いたアレンジとなりました。どちらの編成でも作曲者である盛悟さん自身が演奏者という役割も担っていますが、曲を作ることと、演奏すること、表現の違いはありますか。

曲を作ることも演奏することも、反射でやっていきたいと思っています。
例えば、自動販売機にコインを入れて、ボタンを押せばジュースが出てくるのと似ていて、自分というブラックボックスにヒョイっとなにかが入って、自分が反応して何かがアウトプットされる。でもそれって言うほど簡単ではなくて、自分の都合でコインが詰まって入ってこなかったり、アウトプットがうまくできなかったり…。それが自分の中の戦いでもあります。ん〜この辺、かっこいいこと言ってる気がするけど、実際、国内バージョンは、編曲の点ではつばささん(堀つばさ:箏を担当)や好江さん(唄を担当)がほとんどやってくれたんですけど(笑)…。

「たまゆらのみち」に関する、演奏・舞台秘話などありますか?

舞台の裏話と言えば、上手、下手の袖のギリギリで仏鉦を鳴らしてくれているメンバーが二人います。ベストのタイミングに音のピークや音の切れ際をもっていくため、日々、全神経を使って演奏してくれています。それでいて、舞台袖中でうずくまって隠れつつ演奏する姿は、まるで忍者のようです。(笑)あとは、舞台上で好江さんの「遠い 遠い 果て …」というフレーズを聴いて、なんか感動してしまって胸が熱くなって涙腺緩みそうになったこともあります。

本番中、唄の後に続く演奏で盛悟さんが焦って笛を構えるようなことがあれば、その時は感動のあまり思わずボーっとしていた時かもしれませんね(笑)。ところで、唄あり/唄なしなど編成が変わっても笛は変わらず使われていますが、この曲における笛の役割はどういったものですか。

この演目の笛の存在は、単純に伴奏楽器として、情景的には湿度感、感情的には寂しさの中にある強さみたいなことを表現したいと思っています。また、後半の笛の独奏部分では大太鼓を導き、これから打ち手が太鼓に挑んでいく覚悟、また背中に感じる陰の部分、「さて、これより男が背中で語ります!」みたいな感じを出せればと思っています。

最後に、今年のワン・アース・ツアーの醍醐味、今後の挑戦について聞かせて下さい。

実は、鼓童ワン・アース・ツアーで笛奏者として単独でツアーに就くのは今年の国内公演が初めてで、結構プレッシャーを感じています。というより、単純にビビってます。でも、日々、発見がありツアーの中で自分がどんどん変化していくのが楽しいです。
新たなチャレンジとしては今の箏、唄、笛の編成に胡弓や太鼓を加えたものをツアーに持って行きたいです。
ん〜これは演出家に売り込まなければ…。

今年一年の締め括り、鼓童十二月公演でも「たまゆらのみち」は演奏される予定とのこと。常に進化を遂げるこの演目が、次はどんな編成で、また、盛悟さんがどの楽器で舞台に登場するか楽しみです。
どうも、ありがとうございました。

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