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心の芯に「芸術的要素」を/坂東玉三郎氏インタビュー


坂東玉三郎氏インタビュー
心の芯に「芸術的要素」を

2016年8月 鼓童創立35周年記念コンサートパンフレットより
文◎伊達なつめ 写真◎岡本隆史

Photo: Takashi Okamoto

──芸術監督就任当初(2012年)は、「和太鼓にはバリエーションが多いわけではないから」と苦労されている様子でしたが、次々と新しい表現が生み出されていますね。

玉三郎 「今日まで出来るだけのことをしてきた」という感じです。正確には「ないもの」を出すというより「ある」ものをそのままではなく展開させて幅を広げる作業になったということでしょうか。『大太鼓』『屋台囃子』『三宅』といった、鼓童のレパートリーを代表する太鼓の曲を沢山聴いていて、今後の為にもさらに新曲があった方がいいのではないかと思い、新しい音楽的なものを模索してきました。私は全てを譜面で伝えていくわけではないので、はじめから「こういうものを創ってほしい」という設計図を示すことはしてきませんでした。鼓童のメンバーが出してきた音を「この音と、この楽器を組み合わせて」やってみては「あ、ぜんぜん合わなかった、こちらの方が良いなあ・・・」などと言いながら、現場で創ってきたのです。

Photo: Takashi Okamoto

その結果、徐々に新しい音が出て来たのでしょうか。それともうひとつは、これまでなかった新しい楽器の組み合わせや使い方、この楽器を加えたら、あるいはこの太鼓の音を前に出さずに、後ろに持って行ったら、どれだけ融合して聞こえるか、といったことを試してきました。

Photo: Takashi Okamoto

──ワン・アース・ツアー『混沌』(2015年初演)で登場した太鼓奏者によるドラム演奏など、実にユニークでした。

玉三郎 同じ打楽器でも、奏法も音の性質もすべてが異なるドラムを使ってみることで、その後元に戻った時に彼らの耳に聞こえる太鼓の音が違ってきたことが、とてもよかったと思っています。たとえば一度旅に出て戻ってくると、自分が住む場所の違った面が見えてくるでしょう。それと同じことを、彼らも感じられるようになってきたのです。

Photo: Takashi Okamoto

──「ちょっとドラムに挑戦にしてみた」という次元とは異なり、「プロの太鼓打ちがドラムを演奏するとこうなる」という新たな楽器の解釈を提示していました。

玉三郎 そこまでいかなければ、お客様に失礼ですから。もちろん今回はプロのドラマーのようには出来なくても、鼓童ができる範囲で、最善のものをお見せしなければなりません。そのために、ここに至るまで3年間かけて稽古してきたのです。

Photo: Takashi Okamoto

──新たに挑戦する楽器の習得に3年をかけ、来年初演の新作の稽古もすでに始まっている。時間の取り方にゆとりと計画性がありますね。

玉三郎 僕自身、俳優として舞台に立つようになってから認めてもらえるまでには、多くの年数がかかりましたし、中国の伝統演劇である昆劇に出演した際も、最低、5、6年は必要でした。フランスの太陽劇団(テアトル・ドゥ・ソレイユ)だって、ひとつの作品を創るのに稽古に2年間もかけているわけです。シルク・ドゥ・ソレイユだって、きっとそうでしょう。本来作品創りというのはそういうものなんです。

──プロの演奏家でありながら、別のジャンルの音楽に挑む姿勢もユニークです。たとえて言えば、チェロの演奏家が胡弓を弾くようなものですよね。

玉三郎 クラシックのチェロの専門家は、人前では胡弓の演奏はしないでしょうけれど、鼓童はとにかく余裕があればやれるところはやってしまわなければならないのです。「やれないでしょう・・・」と言わないで「やれるでしょ?」って最初に言ってしまうんです・・・(笑)。そうするとみんな、だんだん出来るようになっていくんです。そもそも『三宅』(伊豆七島の三宅島)だって『屋台囃子』(埼玉県秩父市)だって、地方の芸能として演奏されているものを、舞台用にアレンジしてきたわけですから。鼓童はそうやって、あらゆる音を自分たちの音色にしてきたのです。ですから今後も、そういうことをして行かなければなりません。

Photo: Takashi Okamoto

──来年初演の新作『幽玄』は、『アマテラス』に次ぐ玉三郎さんと鼓童との共演第2作目、能の世界を鼓童の音色で表現しようという新たな挑戦ですね。

玉三郎 先年打ち手のみんなに、今後はどんなものをやりたいの?・・・と聞いてみたら「日本のものをやりたい」というのです。それじゃあそうしましょう・・・ということになりました。ただ「日本ものはとても難しいよ・・・」とだけは言いました。どこかで古典の専門家の目に触れるでしょうし、様式も技術も、どこまで掴めるかはわからないにしても、「やるんだ」「突き抜けたい」という思い込みだけでは出来ませんからね。お客様にお見せ出来るだけの、練り込む時間がないといけないでしょうね。お能の様式そのものは使えないですから、自分たちが使ってきた楽器で、能や歌舞伎の囃子方では使わない楽器で、稽古をしていかなければなりません。同じ楽器を使ってしまえば、専門家の方が素晴らしいに決まっているわけですから、自分たちの楽器を使って、表現できるように稽古しています。

Photo: Takashi Okamoto

──締太鼓ひとつとっても、能や歌舞伎の大太鼓と似ているようで違うし、違うけど似ているという…

玉三郎 音色が不思議な感じですよね。めずらしさも、新しさも必要ですし、稽古をしていると想像もつかないところにいくんです。それに『幽玄』というからには、謡も入った方がいいかなと思って、ここ5年間くらいやっている発声練習を、謡に活かせるように稽古しています。毎日練習して行けば、確実に声が出て来ますし「なんでもできちゃう」というわけではないですけれど、出来ることはきちんと学んでいきたいと思っています。

──能と歌舞伎と鼓童、と聞いて、アイリッシュダンスと類似点があるタップダンスやフラメンコと競演する『リバーダンス』の一場面を思い出しましたが、そうした広がりも期待できそうですね。

玉三郎 タンゴが酒場のコミュニケーションから生まれてきて、後に芸術的なものに発達したのと同じだと思います。ただ、神社やお寺に集まって演奏するのと、劇場で入場料をいただいてお客様にお越しいただくものとはまた別なことですから、それとは違う線をきちんと引いた状態を保たなければなりません。このようにして、鼓童は各地の芸能に影響を受けてきましたが、デビュー当時から海外公演を多く行う中で、ブルーマン・グループやストンプ(ともにオフ・ブロードウェイを中心に世界各地で公演を続けるパフォーマンス集団)や、シルク・ドゥ・ソレイユのラスベガスのショウの「ミステール」などにも影響を与えているそうです。最近のワン・アース・ツアー『伝説』『神秘』の海外公演では、十分に受け入れられたようですが「影響を受けた海外の打楽器演奏の方が、うまく叩けている」ということにならないように「しっかりとした自覚を持つように」とみんなには話しています。

Photo: Takashi Okamoto

──35周年を迎えた鼓童の今後のことは、どうお考えですか。

玉三郎 具体的には来年(2017年)の春から、「アマテラス」に続く鼓童との共演第2作目の『幽玄』の幕が開きます。9月には、博多座での公演も予定しています。そして秋からは『打男』の日本ツアーが始まります。2009年に創った『打男』が、来年から日本と北米のツアーを回れるようになったことは、演出家としてはとても嬉しいです。佐渡に通うようになってから16年が経ちました。これまで10作近くの作品を創ってきましたが、実は思いのほか大変な作業だったんです。つまり戯曲や筋立て等の全く無いところから、打楽器演奏群の一晩の舞台(コンサート)を構成して行くのですから。自分としては出来るだけ楽しんで創っては来ましたが、お客様がどう思ってくださるかは、また別なことです。特に鼓童の古くからのお客様には、今までとは違う方向性に対する違和感もあったと思います。現在は世界情勢も経済も大変難しい時期を迎えているように思います。そうした状況下で、鼓童のみなさんも「5年後、10年後に自分たちがどうなっていたいのか」・・・ということを真剣に考える時期が来ているのではないでしょうか。

Photo: Takashi Okamoto

鼓童の「和太鼓の曲」は初めから有りましたが、これからは純粋に「打楽器の曲」として考えて行かなければならないこともあるでしょう。また大きな意味で「音楽としての曲創りの捉え方」「舞台人としての有り方」も重要になってくるでしょう。それに加えて心の芯に「芸術的要素」を持って、進んで行ってもらいたいとも考えています。また「舞台裏はお客様には見えている」ということも伝えています。「エンターテインメント」でありながら「品格」も大事なことです。自分も今後の日本の芸術の有り方などを、問い直していきたいと思っているのです。

ー2016年8月 鼓童創立35周年記念コンサートパンフレットより


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坂東玉三郎(ばんどう たまさぶろう)
歌舞伎界の立女形。その深遠な美意識は様々な分野でも発揮され、「ロミオとジュリエット」「海神別荘」などの作品で舞台演出家として高い評価を得る一方、映像作品「外科室」「夢の女」「天守物語」で映画監督としての才能を発揮し、大きな話題となった。2012年4月から4年間、鼓童の芸術監督に就任。2012年9月に、歌舞伎女形として5人目となる重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定、また2013年にはフランス芸術文化勲章最高章「コマンドゥール」を受章した。


 

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