鼓童メンバーの宮﨑正美が、昨年7月に訪問した岩手・宮城・福島での学校公演を通じた体験を振り返りました。
去年、実際に被災された皆さんの所に行き、太鼓を打たせていただいたことは、私達の心に貴重な体験として刻まれています。家や大切な人を失った方々が、私達の公演を聞きにきてくれる。実際その方々が、どうやって生きて今ここに来てくださっているのか分からないのですが、目の前にその方が生きていてくれるということだけで、この世の奇跡に思え、本当に有り難く感じました。元気づけようなんて、おこがましい。進行役でマイクを持っていたのに、涙が溢れてきて仕方ありませんでした。私達は、太鼓を叩くことイコール自分が生きている証。普段はなかなか意識することはありませんが、その現場にあっては、もうとにかく、自分たちが生きてやってきたこと全てを出す。そうすることでしかなかった、と今振り返って思います。
普段の公演の反省では細かいことが問題になることもありますが、今回は皆が自然に「もっと持っているものを出せ」とか、「あそこでバテてたら駄目だろう」とか、音に込める魂とか思いといった、もっと大きなものを求めていました。この公演で皆さんと一つになって、いい空間を作りたい。その一つの方向に音や気持ちが集まったことで、心の余裕、広さみたいなものを共有できていたと思います。太鼓の魅力でもありますが、鼓童はアンサンブルです。力を合わせ、作り上げていく私達の姿を見て元気になってもらえたのかな、と皆さんの反応を見て思いました。
子供達の顔つきは、一生懸命何かを感じようとしていました。自分達はこれからいろんなものを見て、いろんな思いをしながら強く生きていかなくてはいけないと思っているかのように。また大人達は、本当に大変なことを抱えていらっしゃっただろうに私達をすごく温かく迎えてくれました。「もう、生きていくしかないでしょ!」と、すごく明るく振る舞われる姿に人間の逞しさを感じました。
太鼓という楽器はコミュニケーションの道具だと改めて思います。私が一人でポンと向こうへ行ってお話しをするだけで、相手と繋がれただろうか。そこには間に太鼓があったから、その音を聞いてもらい、叩く姿で感じてもらえたし、聞いてくれる姿に私達の心が動きます。一度繋がれた東北の皆さんとの再会をいつもいつも心に願いつつ、鼓童はこれからもずっと旅を続け、沢山の人に魂を込めた太鼓の音を届けたいと思います。
宮﨑正美
※月刊 鼓童 2012年3月号に掲載しています。