「鼓童」芸術監督招聘ならびに新代表選任のご報告 | 芸術監督・坂東玉三郎氏より

坂東玉三郎

この度「鼓童」から芸術監督を依頼され、就任することとなりました。芸術監督を務めるのは初めての経験ですし、鼓童の将来の為に何を行うべきなのか、観てくださるお客様にどんな舞台を提供出来るのかを、改めて考えています。

今さら鼓童のこれまでの成り立ちを語るのは重複になりますが、鼓童は古代の楽器を使って活躍する新しい芸能集団で、地方に伝わる郷土芸能を基本に、現代的な技術を考案し開発させ、新しい構成で舞台を創り上げ、日本の芸能の一つとして位置付けられてきました。そして今年30周年を迎えました。

私は2000年から2010年までの10年間を舞台創りの為に佐渡に通い続け、「鼓童ワン・アース・ツアー スペシャル」「打男 DADAN」という作品を演出し、「アマテラス」では共演もさせて頂きました。三つの作品を通して私が理解したことは、ある一定の場所に籠もって修行することの大切さでした。テクノロジーに囲まれている今の都会を離れて自分と向き合い、純粋性を保ちながら、人間として、そして芸能者として真っ当に生きることを此処で望むのです。現代には希少な佐渡という自然の中で、折に触れ、ここに古代の息吹が潜んでいることを肌で感じることがあります。しかしこの地に居て修行をし、幸せを感じる者達が、人間社会や都会からの逃避であってはならないことも理解したのです。また、この佐渡で創った芸能を都会の劇場で上演し、現代のお客様に納得して頂く作品を創ることの難しさも痛感しているのです。

素朴でありながら華やかさを有し、郷土的な雰囲気を放ち、しかも現代に通じていなければなりません。

披露する作品が、十二分にお客様の為でありながら、必要以上に迎合しないことの難しさは言うまでもありません。

そのような意味で、私は責任を果たさなければならないと思うのです。

芸能にはあらゆる要素が入り交じっています。清と濁、善と悪、美と醜、神と悪魔。

島という囲まれた所に居ながら、相反する両面の事柄を己の中で、選択して行かなければなりません。

人間としての性を抱きながら、性を乗り越えられる芸能者であることの難しさに直面するのです。

島、海、草木、虫の声、蝉の声、花、朝夕の風、日の光、星群。

人間は自然を超越することは出来ません。そうであるからこそ、芸術をもって自然と対峙し、無心に成れた時にのみ、人間も自然の一員として受け入れられるのでしょう。太鼓に向い、技術が十分に習得され、十分に制御されつつ、肉体、意識、欲望、希望、更には魂を忘れるほどの境地に成った瞬間、其処に居合わせた全ての者に、言葉にはならない達成感を与えられるのでしょう。

私が成すべきことは、其処に修行する人達をその境地に誘うことですが、一生を通じて完璧な意味でそのような境地に達することが無いことを知っている自分にとって、この役目はある意味で自身の試練なのです。

共に目指し、夢を抱き、修行して行きたいと考えています。

将来の作品については、今までに有った太鼓の打法を基本に置き、新しい構成で、新鮮な作品をお見せ出来るように努力しようと思っています。

重厚さの中に軽妙さが垣間見られ、見た目にも美しく、楽しめ、深淵な香りが漂う舞台創りが出来たらと考えています。

坂東玉三郎

坂東玉三郎(ばんどう・たまさぶろう)

歌舞伎俳優。現代日本を代表する歌舞伎の立女形。新派、翻訳劇、現代劇などにも出演。舞踊家としても、ヨーヨー・マ(チェロ)、モーリス・ベジャール(バレエ振付)など様々な分野の芸術家とのコラボレーションを多数行う。また映画監督、演出家としても独自の美を創造する。

坂東玉三郎オフィシャルページ

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