吉井盛悟が単身ベルギーに渡り、世界14ヶ国から集まった13人のダンサーと5人のミュージシャンが出演する作品「Babel(バベル)」に出演します。
この作品は、現在、世界的にも注目されているベルギー出身の振付家/ダンサーのシディ・ラルビ・シェルカウィ氏とダミアン・ジャレ氏が演出、振付を手がけ、イギリスを代表する彫刻家アントニー・ゴームリー氏が舞台美術でコラボレーションを果たしています。
ベルギー、スイス、イギリス、スペイン、ドイツ、ルクセンブルグ、フランス、イタリア、オランダ
ベルギー・ヘント
Capitole Ghent, Gent Festival van Vlaanderen
フランス・メス
L'Arsenal
オランダ・アムステルダム
Stadsschouwburg Amsterdam
ベルギー・ヘンク
Cultureel Centrum Genk
フランス・ディジョン
L'Opera de Dijon
オーストリア・ザンクトペルテン
Festspelhaus St. Polten
フランス・リール
Opera de Lille
フランス・ルーアン
Opera de Rouen
フランス・ニース
Theatre National de Nice
ドイツ・ベルリン
Berliner Festspiele
ベルギー・アントワープ
De Singel
ベルギー生まれ。1999年に振付家としてデビュー。2000年に振付けた『Rien de Rien』では、数々の賞を受賞。以降、世界の主要な劇場やフェスティバルの新作プロデュースを手がけて、次々と話題作を発表。『Rien de Rien』『Foi』『Tempus fugit』と平行して、長年の演出パートナーのダミアン・ジャレ、ファン・クルズ・ディアズ・デ・ガライオ、リュックと『D'avant』 を手がける。アクラム・カーンとのプロジェクト『zero degrees』は、日本でも上演され好評を集めた。世界で最も注目を集める若手振付家の一人。
ベルギー生まれ。1998年にヴィム・ヴァンデケイビュスなどの作品にダンサーとして出演してデビュー。『Foi』『Tempus fugit』『Loin』『Myth』にて、シディ・ラルビ・シェルカウイとの共同作業、そしてダンサーを務める。また2002年にはベルリンのシャウビューネ劇場40周年記念制作作品『D'avant』に共同振付・ダンサーとして参加、世界的に高い評価を受ける。このほかオペラ・映像作品など多方面に渡り活動。
この作品タイトルの「バベル」というのは、旧約聖書「創世記」に登場する、あの「バベルの塔」のバベルのことです。かつて世界が一つの言葉を使っていた頃、天まで届く塔を建てようと企てた人間の奢りに対し、神が違う言葉を与えて互いの意思疎通を図れなくしたという神話、そして、言語の違いからくる混乱、そこにある「境界、壁」の由来です。
この作品の出演者、その国籍は十三ヶ国にも及びます。実際に稽古が始まって、僕自身その「壁」に悩まされました。第一はまさに言葉の壁でした。演出家が望む細かいニュアンスについていくのも精一杯でしたし、自分から提案したいことも巧く説明しきれません。それは僕だけではないようで、イタリア語、フラマン語、フランス語、インド語、トルコ語などいくつもの言語が飛び交い、お互いに気持ちを通わせようと努力していました。壁は言葉だけではなく、音階やリズムにもありました。トルコ音楽の音階を胡弓で弾くことには苦戦しました。まず、調弦をどうするかというところから「ちょっと待って、ちょっと待って」の連続でした。また、リズムも同じです。イタリアのパーカショニストが譜面を書いて、それに自国語の口唱歌をふるインドの方々。四分音符に対し「これはターなのか、ダァなのか。」と質問。楽器や音楽の構造が違うのでちょっとやそっとじゃ馴染みません。いざ、音を合わせてみると「これは音楽として面白くないんじゃないか?」と。根本的な感覚の違いすら見え隠れします。
近づこうと思い互いを知れば知る程、逆に自分との違いが見えてくる。その違いの壁をどのように崩すか…。これは神話が物語る世界観に対する挑戦のようです。しかし、時間を重ねていくうちに、その違い自体を楽しんでいる気持ちが生まれてきました。
「創世記」には、バベルの塔は奢りの象徴として描かれているそうですが、今、14ヶ国に散らばった文化を背負い集まった仲間と築こうとする塔は、思いやりに溢れています。それは「高い塔」ではなく、広がりがあり、膨らみがある「球」のようです。
吉井盛悟