山口幹文待望のソロアルバムが、12月1日、音大工より発売されます。本拠地・鼓童村で、佐渡の真竹で作られた真笛(まこぶえ)の豊かな響きを余すところ無く収録しました。ゲストにピアノ・二野明氏、ギター・今泉孝文氏、唄・藤本容子を迎え、オリジナル曲に加え世界の民謡を美しくアレンジした作品集です。鼓童オンラインストア、または鼓童公演会場の物販コーナーにてお求めください。
まず初めに、「一管風月」というタイトルをつけた由来を教えて下さい。
これは以前から、笛のコンサートのタイトルとして使っています。 宋の詩人、陸游の「鵲橋仙」の中の「一竿風月」をもじって付けました。詩人は釣り糸を垂れて花鳥風月に身を置くのですが、ぼくは一管の笛で万物の妙味を表現できないかと…。
今回、篠笛でなく真笛(まこぶえ)という笛を使用したそうですが、真笛とは?
笛師の蘭情さんの手による真竹製の笛で、二年程前から使っています。繊細で優しい音色の篠笛に比べ、音量も豊かで、芯の太い音色が特徴的です。今回はこの真笛の特徴を生かした仕上げにしました。
収録の候補曲は沢山あったと思いますが、どのように選曲されたのですか?
「山唄」や「オヨーダイ」のように、長年演奏し続けてきた曲を新しいアレンジで入れました。「貝殻節」も「ダニー・ボーイ」もそうですが、毎回新鮮な気持ちで演奏できた曲を中心に、新作を加えた形になりました。それにボーナストラック的な意味で、戦前の懐メロを一曲(笑)。
ゲストの方を交えての演奏録音で、何か大変だったことや、新たな発見はありましたか?
二野さん(ピアノ)や今泉さん(ギター)は今回が初めての共演でしたが、本当に楽しい時間でした。録音現場でアイディアが次々と出され、ぼくには思いつかないようなコード進行など、音楽的な発見も色々ありました。意外と苦労したのが、長年吹いてきた「山唄」でした。高低二管の笛でアレンジを考えていたのですが、どうもしっくり行きませんでした。そこで試しに低い方の一本調子の笛だけで吹いてみたら、ちょっと尺八の本曲のような雰囲気が出て、なかなか面白い結果となりました。今回、一番体力を消耗した曲です。
このCDを聴いた人はどんな世界を体験すると思いますか。どんな時に聴くのがベスト?
人それぞれ感受性が異なりますから、どうでしょうか。一概には言えません。絵画を鑑賞する理想の空間や時間に決まりが無いように、このCDも自由に聴いて貰えたらと思います。どんな世界を体験をされたのか、ぜひお聞きかせ下さい。
最後に、ライブ演奏でなくCDになった「一管風月」に込められたメッセージとは?
ライブ演奏は、演奏者とお客さんがその場で創り上げる要素が多く、相互に影響し合うのが醍醐味といえます。しかし録音媒体の場合は、いつ再生しても出てくるものは同じ。しかし、面白いのは聴き手は変化しているということです。同じ環境で毎日同じCDを聴いたとしても、昨日聴いた曲は今日の自分に同じように聴こえるとは限らない。録音されたものは、自分の変化を発見するという楽しみ方もあります。ぼくが心動かされ演奏し続けてきた音楽の素晴らしさを、多くの人と分かち合えたら素敵だと思います。
聞き手:安藤良子