この秋、イギリスで初めて本格的な日本の刺し子展が開かれます。装飾的であると同時に着る人の心身を守るためにデザインされてきた刺し子を、古く使い込まれたものから現代作家の作品まで紹介し、それぞれの作品が作られた時と場所を表現しようとする企画です。その展示作品の中に、スタッフの大井キヨ子が刺し子を施した半纏が選ばれました。ヨーク美術館で今年10月から開かれ、その後グラスゴーやプリマスなどの美術館を巡回します。
「作品の背景にある物語に基づいて展示品を選びました。私の研究はいま差し迫った状況にあります。刺し子をする最後の(今や高齢者となった)世代が、伝統的な生活様式と共に、急速に滅びつつあるのです。そして彼らを育んできた自然環境も一緒に消え去ろうとしています。」(展示作品の収集に携わったテキスタイル・アーチストのミッシェル・ウォーカー氏。)
1975年に「佐渡の國 鬼太鼓座」に参加し、舞台、結婚、子育て、「刺し子」で自身の作品を発表するなど、鼓童の中で様々な道を切り開く。また、日本女子マラソン界の草分けとしても知られる。
大井の刺し子の歴史は30年前、佐渡・宿根木の小木民俗博物館に展示されていた刺し子との出会いに始まる。佐渡では「ゾンザ」と呼ばれる防寒用の分厚い刺し子着物で、特に海で働く人びとにとっては寒さを防ぎ、降りかかる潮から身を守るための必需品であった。この佐渡の日用品であった刺し子との出会い以来、佐渡に暮らしながらライフワークとして刺し子を作りつづけている。鼓童「うぶすな」公演で藤本吉利が身につける衣装に施した刺し子も大井によるもの。